「情報の科学と技術」2016年9月号 (66巻9号). 特集= 専門図書館~公開型専門図書館のいま

特集:「専門図書館~公開型専門図書館のいま」の編集にあたって

今月号の特集では「専門図書館」を取り上げます。
平成17年1月に「図書館をハブとしたネットワークの在り方に関する研究会」が「地域の情報ハブとしての図書館(課題解決型の図書館を目指して)」という報告書を出してからすでに10年以上の月日が経過しています。これを受けてビジネス支援や医療関連情報の提供などに取り組み一定の成果を上げている公共図書館も見受けられます。この10年間の社会の変化にともなって,利用者のニーズが複雑になり公共図書館の枠組みだけでは解決できない専門的な資料を必要とする課題が出てきています。そういった社会環境を考えれば,開かれている専門図書館の持つ専門的な資料群の活用や図書館間の連携が,課題解決の鍵となりえます。また,専門図書館の多くがワンパーソンライブラリーであるという実態を踏まえれば,組織間をこえた人的な交流や研修なども大事な要素になるのではないでしょうか。
総論では,明治大学の青柳英治氏に事例は踏まえつつ,公開型専門図書館の現状把握,今後の課題の検討,その課題解決のための方策の提示を行っていただきました。
つづいて,カーリルの吉本龍司氏には,現在参加していらっしゃる「ディープライブラリー・プロジェクト」について技術面の解説と,ウェブサービスを活用したアウトリーチの手法について,図書館蔵書検索サイト「カーリル」を運営する立場から考察していただきました。次に,資生堂技術知財部の末廣恒夫氏には,理事をつとめていらっしゃり多くの企業内専門図書館の会員が中心となっている神奈川県資料室研究会が現在まで600をこえる月例会を実施してきたコツや月例会の研修内容についてご執筆いただきました。現場の図書館員のためになる研修を企画されており,参考になるかと思います。図書館内での取り組みの事例として,大宅壮一文庫から,個人アーカイブ「大宅資料室」から始まった雑誌収集やカードシステム,現在も受け継がれている「大宅式」といわれる独自の分類項目,所蔵雑誌とともに大きな特徴である雑誌記事索引の作成方法と変遷について解説していただき,大宅壮一文庫の今についてご執筆いただきました。聖隷佐倉市民病院図書室の山口直比古氏からは,全国100以上開設されている患者図書室の現状と問題点などを紹介していただきました。
本特集が,専門図書館の今後を考える上で,少しでもお役に立てれば幸いです。

(会誌編集担当委員:小山信弥(主査),鳴島弘樹,福山樹里,水野翔彦,吉井由紀子)

公開型専門図書館の現状と課題:管理運営とサービスの側面から

青柳 英治 情報の科学と技術. 2016, 66(9), 446-451. http://doi.org/10.18919/jkg.66.9_446
あおやぎ えいじ 明治大学文学部
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1        (原稿受領 2016.6.19)
本稿の目的は,公開型専門図書館を取り巻く内外の状況を踏まえ,公開型専門図書館の現状把握を行い,今後の課題を検討し,解決の方策を提示することである。まず,公開型専門図書館の現状を,管理運営とサービスの側面から明らかにした。次に,公開型専門図書館の顕著な取り組み事例を参照し,二つの側面から課題の検討を行い,それを解決するための方策を提示した。具体的には次の点を提示した。管理運営においては,(1)ボランティアによる人的支援の導入,(2)交流を促進する場所としての機能,(3)外部資金の調達である。サービスにおいては,(1)レファレンス事例の公開,蔵書横断検索による利用機会の拡大,(2)社会人から児童・生徒までのサービス対象者層の拡大である。
キーワード:専門図書館,公開型専門図書館,管理運営,サービス

専門図書館の発見可能性を向上する―ディープライブラリー・プロジェクトのコンセプトと技術

吉本 龍司 情報の科学と技術. 2016, 66(9), 452-456. http://doi.org/10.18919/jkg.66.9_452
よしもと りゅうじ 株式会社カーリル 代表取締役・エンジニア
〒509-9232 岐阜県中津川市坂下1645-15
E-mail: contact@calil.jp        (原稿受領 2016.7.19)
筆者が参加する「ディープライブラリー・プロジェクト」は,専門図書館の横断検索サービス実現に向けて活動してきた。このプロジェクトのコンセプトについて,主に技術的な視点からまとめるとともに,今後の可能性についても提案する。また,近年,専門図書館のアウトリーチの必要性が高まっているが,ウェブサービスを活用したアウトリーチの手法についても,図書館蔵書検索サイト「カーリル」を運営する立場から考察する。
キーワード:専門図書館,図書館システム,横断検索,総合目録

神奈川県資料室研究会の研修活動への取組 月例会を中心

末廣 恒夫 情報の科学と技術. 2016, 66(9), 457-460. http://doi.org/10.18919/jkg.66.9_457
すえひろ つねお 株式会社資生堂 技術知財部
〒224-8558 神奈川県横浜市都筑区早渕2-2-1        (原稿受領 2016.6.28)
神奈川県資料室研究会の活動の中心は,8月を除く毎月開催している月例会である。月例会では,講演会,見学会,グループディスカッション等を行っている。理事会が月例会の企画・運営を行っており,年間計画を立てて総会に提案している。講演会では,電子ジャーナル・学術雑誌関連,実務関連,著作権関連などのテーマを中心に取り上げている。毎回詳細な記録を作成し,「神資研ニュース」と年報「神資研」に掲載している。小規模やワンパーソンで運営しているところが多い会員に対して,「泥臭さ」と「半歩先を行く」というモットーの元に月例会を開催しているところに,神資研が月例会を開催する意義がある。
キーワード:神奈川県資料室研究会,地域ネットワーク,企業内専門図書館,研修活動,企画・運営

雑誌図書館「大宅壮一文庫」と索引作成の歩み

公益財団法人 大宅壮一文庫 情報の科学と技術. 2016, 66(9), 461-466. http://doi.org/10.18919/jkg.66.9_461
こうえきざいだんほうじん おおやそういちぶんこ
〒156-0056 東京都世田谷区八幡山3-10-20
Tel. 03-3303-2000 URL. http://www.oya-bunko.or.jp/        (原稿受領 2016.6.22)
評論家・大宅壮一が遺した雑誌コレクションを引き継ぎ,1971年に設立された雑誌図書館「大宅壮一文庫」。その前身である個人アーカイブズ「大宅資料室」から始まった雑誌収集やカードシステム,現在も受け継がれている“大宅式”といわれる独自の分類項目,所蔵雑誌とともに大きな特徴である雑誌記事索引の作成方法と変遷について解説する。インターネットの普及により容易に情報が得られるようになったが,“時代の証言”ともいえる雑誌記事索引をユニークな切り口で検索できるデータベース「Web OYA-bunko」の魅力,そして「大宅壮一文庫」の現在。
キーワード:雑誌,記事索引,カード索引,分類,情報整理,専門図書館,アーカイブズ,データベース,大宅壮一,大宅壮一文庫

病院の図書室 - 病院図書室と患者図書室,そしてその先へ

山口 直比古 情報の科学と技術. 2016, 66(9), 467-472. http://doi.org/10.18919/jkg.66.9_467
やまぐち なおひこ 聖隷佐倉市民病院図書室
〒285-8765 千葉県佐倉市江原台2-36-2
E-mail: naohikoy@nifty.com        (原稿受領 2016.6.12)
病院には医療関係者のための図書室と,患者のための図書室の二種類の図書室がある。前者は医学図書館であり,主に医学情報を提供している。地域医療支援病院などの3割程度に設置されており,相互協力(ILLでの文献複写依頼)を中心に司書が一人で仕事をしている。後者は,患者・家族・市民のために医療・健康情報サービスを行っている。患者の立場に立ってインフォームドコンセントを支援する,という役割を担っている。全国に100以上の患者図書室が開設されている。それらの現状と問題点などを紹介する。さらに,一般市民に対する健康情報サービスが,公共図書館を中心に広がっているため,病院の図書室ばかりではなく,大学医学部図書館との連携・協力が求められている。
キーワード:病院図書室,患者図書室,医学情報サービス,健康情報サービス,インフォームドコンセント

次号予告

2016.10 特集=「読書論」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論  読書の現在
  • 各論1 ビブリオバトルについて
  • 各論2 デジタルアーカイブ時代の大学における「読書」の可能性
  • 各論3 読み効率を高める日本語電子リーダー設計の試み
  • 各論4 大学図書館における情報リテラシー教育の可能性
  • 連載:試験問題解説/著作権入門/情報分析・解析ツール紹介

など