「情報の科学と技術」2015年11月号 (65巻11号). 特集= 情報をわかりやすくするデザイン

特集:「情報をわかりやすくするデザイン」の編集にあたって

今月の特集は,「情報をわかりやすくするデザイン」をテーマにお届けいたします。
正確な情報をよりわかりやすくするためにあえて情報を簡素化したり変形させたりするデザインは,これまでも多く考案されてきました。特に現代においては膨大な情報を,多種多様な人々に伝達するためさまざまな手法を用いることが必要となっています。
ピクトグラムやマップはその代表的な例で,図書館などにおいても館内表示や館内マップなど,さまざまな場面で活用されていますが,最近ではスマートフォンなどのモバイル端末やGPS技術とともに利用されることも増えてきています。
このようなデザインは,情報を伝えるコミュニケーション・メディアとして発達する中で,「わかりやすさ」「使いやすさ」を伴いながらコミュニケーション・デザインへと変化していて,デザインの進化により人々にどのようにして情報を伝え,それにより人々のコミュニケーションがどう変化するのかという視点からも検討が必要です。
本特集は,情報をわかりやすくするデザインの歴史や背景をおさえるとともに,新しい技術や実践例の紹介,さらにはコミュニケーションの中で果たす役割などについて検討することを意図して企画しました。
総論では,東洋大学の藤本貴之氏から,「情報デザイン」ということばの曖昧さを整理し,多様化し増大しつづける情報を,誰にとってもわかりやすく,効果的に伝達するための論点,今後の課題などをご指摘いただきました。
つづいて,(株)コンセントの長谷川敦士氏より,「情報デザイン」と密接な関係がある「情報アーキテクチャ」の考え方について解説していただきました。いまや「情報」について語るとき,ウェブとのかかわりは切り離せないものとなっていますが,情報アーキテクチャの技術的な側面と,応用可能な概念的背景の側面との両面について詳しくご説明頂いています。
同志社大学の井上智義氏と,(株)サインの鈴村嘉右氏,鈴木雅彦氏からは,情報を視覚化することでわかりやすくする方法についての論考をいただきました。井上氏には情報を視覚であらわすもっとも著名な手段であるピクトグラムの歴史と現在の認知科学を応用した最新の動向,そして動画ピクトグラムなどの新たな展開や活用の可能性ついて論じて頂いています。鈴村・鈴木両氏からは,大量のデータを可視化することによりどれだけわかりやすさが変化するか,という可視化の意義と,普段から多くの方がよく利用しているであろうグラフを,一歩進めてビジュアル化するための工夫や考え方の視点についてご教授いただきました。
最後に筑波大学の三波千穂美氏からは,マニュアルや取扱説明書を作るための技術「テクニカルコミュニケーション」についてご紹介頂きました。誰でも分かるように作るのが当たり前の説明書ですが,どのような点に工夫・苦労しながら作るものなのかの詳しい説明から,私たちインフォプロにとっても様々な気付きが得られることと思います。
「情報をわかりやすくデザインする」ことに日々工夫を重ねているすべての方に,本特集が少しでもお役に立てれば幸いです。
(会誌編集担当委員:立石亜紀子(主査),小山信弥,中村美里,畑野繭子)

情報をわかりやすくするデザイン:情報デザインは「何であって」「何でない」のか

藤本 貴之 情報の科学と技術. 2015, 65(11), 450-456.
ふじもと たかゆき 東洋大学総合情報学部
〒350-8585 埼玉県川越市鯨井2100 東洋大学総合情報学部
Tel. 049-239-1300        (原稿受領 2015.8.24)
情報をわかりやすく編集し,わかりやすく伝達する技術が注目を集めている。情報肥大化社会となっている今日においては,多くの情報がユーザに届くことなく埋没してしまう。そのため,情報それ自身よりも,「わかりやすさ」や「伝わりやすさ」ということが,その価値と有用性を決定する大きな要素になっている。つまり「情報の量」や「情報の質」よりも,むしろ「情報との関係」が大きな価値を生むようになっているのだ。どんな情報も,それがユーザに理解されず,届かなければ意味がないからだ。「情報との関係」に基づき,情報を分かりやすくするデザインである専門領域「情報デザイン」。本稿では「わかりやすさのデザイン」とも言われる情報デザインについて基本的な部分から解説する。
キーワード:情報デザイン,情報アーキテクチャ,わかりやすさのデザイン,ウェブデザイン,ユニバーサルデザイン,デザイン思考,アクセシビリティ

情報をわかりやすく伝える技術-情報アーキテクチャ

長谷川 敦士*1 情報の科学と技術. 2015, 65(11), 457-464.
はせがわ あつし 株式会社コンセント代表/Service Design Network National Chapter Boardおよび日本支部共同代表/HCD-Net副理事長
〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南1-20-6 第21荒井ビル
Tel. 03-5725-0115(代表) E-Mail: hase@concentinc.jp        (原稿受領 2015.8.21)
図書館情報学の知見をWebデザインに活かす観点で生まれた情報アーキテクチャの考え方は,情報技術の普及にともないWebサイトだけでなく,ユーザー体験のデザインのための技術にまで発展した。本稿では,Web情報アーキテクチャの誕生から,Webサイト構築における要素を解説する。また,情報アーキテクチャの生みの親であるリチャード・ソウル・ワーマンの考え方と与えた影響,わかりやすさのデザイン一般への応用,そしてユーザー視点で再定義された現代の情報アーキテクチャについて概観する。
キーワード:情報アーキテクチャ,インフォメーションアーキテクト,ユーザーエクスペリエンスデザイン,Webデザイン,リチャード・ソウル・ワーマン

ピクトグラムによる,わかりやすいメッセージの伝達

井上 智義 情報の科学と技術. 2015, 65(11), 465-469.
いのうえ ともよし 同志社大学社会学部
〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入 同志社大学社会学部
E-Mail: tinoue@mail.doshisha.ac.jp        (原稿受領 2015.8.20)
ピクトグラムとは,指示対象を比較的単純なデザインの絵として表現したものである。本稿では,漢字の起源とピクトグラム,およびイディオグラムの関係を歴史的に概観したのちに,日本におけるピクトグラムの普及とその過程について論じることとする。また,人間がピクトグラムを情報としてどのように処理するのかについての認知心理学的な検討をおこない,多くの人たちにとって,認識しやすく理解しやすくするためには,どのようなことが重要かについて解説する。さらに,最近のピクトグラムの動画研究にも言及し,今後のこの研究領域の課題と展望について考察する。
キーワード:ピクトグラム,イディオグラム,漢字,認知心理学,動画シンボル

データ可視化の必要性と意義-データビジュアライゼーションとは-

鈴木 雅彦,鈴村 嘉右 情報の科学と技術. 2015, 65(11), 470-475.
すずき まさひこ/すずむら よしすけ 株式会社サイン
〒160-6133 東京都新宿区西新宿8-17-1 住友不動産新宿グランドタワー33階
E-Mail: contact@signcorp.jp        (原稿受領 2015.8.31)
現代社会を生きる我々は,知らないうちに無数の情報に巡りあう。データの持っている「質」も複雑なものになり,それらのデータ群から「意味」を見出すのは困難を極める。近年,「ビッグデータ」という言葉がメディアに取り上げられて久しいが,データの集合自体はとても「無機質」なものである。そこから意味を見つけ,正しい解釈を行い,有効活用したいものの,それは専門的知識を有する一握りの特権となっている。万人が平等に,データから意味を見出すには,旧来のグラフでは,表現に限界があるだろう。見たい尺度で,別視点での描画を行う操作性・機能性を保持したグラフに出会うことは少ない。膨大なデータ群が今後も増えていく状況の中で,インタラクションを伴う「データビジュアライゼーション」と呼ばれる可視化技法について,その意義や手法について解説したい。
キーワード:データ可視化,視覚化,表現技法,データビジュアライゼーション,インタラクティブ性

伝えるべき情報をわかりやすく伝えるために―テクニカルコミュニケーションの考え方

三波 千穂美 情報の科学と技術. 2015, 65(11), 476-480.
さんなみ ちほみ 筑波大学図書館情報メディア系
〒305-8550 つくば市春日1-2 筑波大学春日エリア
E-Mail: sannami@slis.tsukuba.ac.jp        (原稿受領 2015.8.19)
取扱説明書やマニュアル制作の広範な基礎知識や考え方の中から,著者が考える,「製品情報をわかりやすく伝える」および「効果的に情報伝達を行う」ための,使用説明制作の知識・技術要素について,「テクニカルコミュニケーション技術検定試験」における技術要素を用いて紹介する。
キーワード:テクニカルコミュニケーション,使用説明,技術情報,製品情報,取扱説明書,マニュアル

次号予告

2015.12 特集=「オープンデータ」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論:オープンデータ
  • 各論1:学術情報流通におけるオープンデータ
  • 各論2:オープンデータとライセンス
  • 各論3:歴史資料のデジタル化とオープンデータ化の実際と理念
  • 各論4:政府統計におけるオープンデータの取り組み
  • 各論5:人文学資料オープンデータの可能性と現状
  • 連載:情報検索検定問題解説シリーズ 第3回目

など