2015. 01 特集= メディアとジャーナリズムの未来

特集 : 「メディアとジャーナリズムの未来」の編集にあたって

あけましておめでとうございます,本年も弊誌をご愛読くださいますようお願い申し上げます。
本特集は年頭を意識したわけではありませんが,インフォプロが業務の原動力である信頼すべき情報源(Primary resource)として日々活用しているメディアやジャーナリズムの原点を確認しておこう,という趣旨で企画いたしました。メディアやジャーナリズムは,民主主義国家では第4の権力と位置づけられ,その役割は国家イデオロギーを超えて先進国では確立しています。しかし,日本では戦前同様に最近現政権によるメディア統制が進み,『<戦前>の思考』と柄谷行人が20年前に危惧したことが現実化したことが判明しています。
本特集はお気づきの読者諸兄(姉)も多いと思いますが,3・11以降のメディアやジャーナリズムがその使命を果たしていないことにあります。これと同様の危機意識は出版学会では先行して取上げられ,シンポジウム「雑誌のジャーナリズムの明日――ピンチかチャンスか?」(2013年5月11日)(注1)として開催されました。雑誌編集は学術界でも一次情報源(Primary resource)として極めて重要な位置づけを得ている領域であり,上流の水源が濁ることは下流に極めて大きな影響を与え続けることになり,下流の立場で水源の現状と未来を精確に認識すべきある,と問題意識を新たにしたからに他なりません。
情報の利活用は電子出版時代にはさらに大きな問題を提示しており,図書館活動では先行するアメリカの研究大学図書館では既に図書館で学術雑誌の編集と出版を展開している大学も増えています。すなわち今までは利活用だけで存在意義を確認できたインフォプロの世界でも自らが出版編集に係わるという大きな転換点を迎えており,その現状と問題を具に理解することは未来からの要請を先取りすることにもなるでしょう。
今回の特集では,電子出版を含めて大学出版界でのヴェテラン編集者を歴任した植村八潮氏に総論をお願いいたしました。他の各論は日本のメディアが直面する問題をメディア,ジャーナリズムと出版そしてこれらを支える法体系の視点をも容れて包括的な議論を可能にすべく構成いたしました。
末筆になりますが,読者諸賢からの忌憚のないご批判を賜ることを祈念して,編集子一同からのご挨拶に代えます。
(会誌編集担当委員:松林正己(主査),福山樹里,小山信弥,中村美里,鳴島弘樹)
(注1)<http://www.shuppan.jp/news/520-2013511.html

ジャーナリズムとメディアの現在-理念を駆動する社会的装置

植村 八潮
うえむら やしお 専修大学 文学部 人文・ジャーナリズム学科
〒214-8580 神奈川県川崎市多摩区東三田2-1-1
Tel. 044-911-1059        (原稿受領 2014.11.23)
ジャーナリズムは,民主主義に不可欠な情報の伝達と,社会正義を実現するための役割を担っている。しかし,この数年来,報道機関をめぐる不祥事や誤報が多発し,マスメディアへの不信感が高まっている。さらにインターネットがマスメディア中心のジャーナリズムを変容させている。本稿では,言論表現を取り巻く法制度が厳しさを増すなかで,メディアやジャーナリズムが担う本来的な意義を再確認し,現在の状況と課題を整理することにする。
キーワード:ジャーナリズム,マスメディア,権力の監視,議題設定,公共性,信頼度,倫理観,草の根メディア

「不思議の国」の調査報道

阿部 重夫
あべ しげお ファクタ出版株式会社 発行人兼編集主幹
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町1-1-4
Tel. 03-5282-7044        (原稿受領 2014.10.6)
月刊誌FACTAは調査報道を目的として創刊8年余,100号を超えた。インターネットの普及で新聞や雑誌など紙メディアが退潮するなかで,報道の使命はスクープを純化すること,すなわち官僚機構や企業組織に依存する「御用聞きメディア」から脱出し,独自にニュースを創出することにあると考えた。しかし,憲法21条で保証されている「表現の自由」に基づく「知る権利」は,インターネットを基盤とした検索エンジンやSNS(交流サイト)の勃興で個人情報がビッグデータの源として日常的に広範囲に収集されている時代に,もはや時代遅れの理念でしかない。現に欧州などでは「知られない権利」論が台頭,調査報道の根幹を揺るがしかねなくなってきた。その二律背反にどう理論武装するか。
キーワード:FACTA,調査報道,知る権利,知られない権利,紙メディア,インターネット,表現の自由,ビッグデータ

国家の利益と言論の自由

山田 健太
やまだ けんた 専修大学
〒214-8580 川崎市多摩区東三田2-1-1
Tel. 044-911-1230        (原稿受領 2014.11.25)
ジャーナリズムの将来を考えるうえで,その活動基盤となる言論の自由や継続的な事業活動が,いかに制度上あるいは実態として確保されうるかは,結論を導くうえで重要なファクターの1つであることは間違いない。そして前者の自由は言うまでもなく,憲法で保障された表現の自由そのものの体現であるが,それをいかに実効足らしめるかはジャーナリストあるいはメディア企業の<姿勢>に左右される部分も少なくない。本稿では,そうしたジャーナリズム活動に携わる者の立ち位置を「国益」というキーワードで考察し,そのうえで制度的保障としての言論の自由や産業育成のあり方について考えていきたい。それはまた,社会における言論公共空間の確保のありようとも大いにつながるものである1)。
キーワード:国益,言論の自由,言論公共空間,制度的保障,誤報,ジャーナリズム,メディア

震災・原発報道における新聞報道の在り方

井上 能行
いのうえ よしゆき 2012年12月から東京新聞編集委員(福島駐在)。
〒960-8068 福島市太田町13-17 福島民報ビル 東京新聞福島特別支局
Tel. 024-535-327        (原稿受領 2014.10.11)
東日本大震災から4年近くが経つ。岩手,宮城の津波被災地では復興が進む一方,福島第一原発事故を抱える福島県では未だに12万人を超える人が避難を余儀なくされている。福島県内では政治不信,科学者不信に加えて,マスコミへの不信感も強い。不信の理由は,福島県の現状が伝わっていない,というものだ。象徴的な出来事がマンガ「美味しんぼ」騒動だ。作者の意図はどうであれ,マスコミが大騒ぎし,残ったのは風評被害だけだった。マスコミが伝えていることと,住民が伝えてほしいと考えることのギャップはどこから生まれるのか。解消法はないのか。福島市に住んでいる記者の視点から考察する。
キーワード:東日本大震災,福島,東京新聞,全国紙,地方紙,ニュース,マスコミ不信

福島第一原発事故後の原発先進国のメディア報道の比較分析

酒井 信
さかい まこと 文教大学情報学部メディア表現学科
〒253-0007 神奈川県茅ヶ崎市行谷1100番地
Tel. 0467-53-2111        (原稿受領 2014.10.11)
本論文は震災と福島第一原発事故から1年以上が経過した後のアメリカ・イギリス・フランス・ドイツの4カ国の報道を中心に,その論調の差異と差異を生み出す社会システムについて考察を行ったものである。分析の主たる対象として上記4カ国を選定したのは,これらの国が原発と関わりが深く,福島第一原発事故の事後処理と日本の復興について,事実報道に留まらない分析的な報道を行ってきたからである。論文の全体として「①他国のメディア報道と類似した文脈」「②他国のメディア報道と見解の異なる文脈」「③同一のメディア内の主張のブレ」「④日本の復旧・復興への提言」に着目して文脈を整理し,分析を行った。
キーワード:メディア研究,ジャーナリズム,社会学

統計情報に関するレファレンス質問に含まれる観点の分析

山本 一治
やまもと かずはる 中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程
(原稿受領 2014.9.16)
統計データを探索する利用者がどのような観点から必要とするデータを探索するのかを明らかにするため,国立国会図書館が中心となって構築している「レファレンス協同データベース」に登録されている質問事例の内容を分析しその属性を整理した。分析にあたっては定性的データ分析で用いられるコーディングの手法を利用した。求められている計数対象,計量対象は何かという点から質問を分類し,その類型ごとに質問に表れている属性を検討し整理した。出現した属性を集計し,質問類型ごとに着目度が高い属性を明らかにした。国民経済計算の枠組みを通して整理することによりストック,フローの概念から求められている数値を整理できることを示した。
キーワード:統計資料,ファセット,レファレンス質問

次号予告

2015.2 特集=「情報専門職の将来」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総 論: 情報専門職の現状と将来
  • 各論1: 企業における情報専門職のこれまでとこれから
  • 各論2: 医学に関わる情報専門職
  • 各論3: 日本におけるアーキビストの将来
  • 各論4: 「図書館情報専門職」の国際比較

など