年頭のごあいさつ
一般社団法人情報科学技術協会
会長 清田 陽司(きよた ようじ)
みなさま、新年あけましておめでとうございます。
会長としての重責を山﨑久道前会長より引き継ぎまして、半年ほどが経過いたしました。コロナ禍の影響は依然として残るものの、会誌の発行や検定試験の実施、各種の研究活動など、INFOSTAを支える主力事業が滞りなく行われていることは、みなさまのご協力に負うところが大きく、心からの感謝を申し上げます。
この半年間、理事や各委員会にて活動されている個人会員の方々、維持会員の方々、INFOSTAと深いつながりのある団体の方々などにご協力をお願いし、INFOSTAが将来目指すべきビジョンづくりに向けた対話の機会を頂戴いたしました。ご多用中のところ、快くご協力いただいた皆様に、改めて御礼申し上げます。
皆様との対話のプロセスから、皆様がINFOSTAにどのような期待を抱かれているかがいくつか見えてまいりましたので、この場をお借りして共有いたします。
一つ目は、「これからの時代に必要とされるコミュニティを新たに形成していくこと」への期待です。2000年代からのビッグデータ活用の加速、2010年代から本格化した人工知能(AI)技術の飛躍的発展などにより、情報専門職をとりまく環境は激変しています。たとえば、昨年にはAIによる絵画生成(Stable Diffusionなど)、大規模言語モデルによる自然な対話システム(ChatGPTなど)が社会に大きな驚きをもたらしましたが、一方で、これまで当然に受け入れられてきた著作権、情報信頼性の概念などが大きく揺らいでもいます。このような状況に適応し、新たな秩序を形成していく上で、日々実務に携わっている情報専門職が大きな役割を果たせる可能性を、皆様との対話の中から見出しております。テクノロジー発展のフロンティアを見据えつつ、実務にどのように落とし込んでいくかをともに探求するコミュニティを、皆様との対話を重ねながら形成してまいりたいと考えています。
二つ目は、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進に必要とされる学びの場を提供すること」への期待です。医療・流通・建設・エネルギー・金融・教育など、あらゆる産業界の最前線では、すでに直面しつつある高齢化、人手不足の課題に対応し、デジタル技術を積極的に取り入れてDXを推進していくことが強く求められている一方、多くの現場では、情報管理やデジタル技術に精通した人材は極度に不足しています。こうした状況に対応するため、情報技術やAI、データサイエンスに関する社会人向け教育プログラム、資格制度などが次々と整備されています。しかし、DXの推進にはこれらのプログラムで学べる知識だけでは対応できないのが現実です。現場の実務においてDXを進めるには、所属コミュニティ(組織や業界)の文脈に依存した課題の解決に必要とされるスキルや知識を、コミュニティ内の実践を通じて獲得する能力が不可欠です。社会人類学者のJean Laveと教育理論家・実践家のEtienne Wengerによって1991年に提唱されたコミュニティ・オブ・プラクティス(実践共同体)の概念は、「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」の重要性を浮き彫りにしています。INFOSTAの歴史を振り返ると、INFOSTAにおける活動の多くは、まさにコミュニティ・オブ・プラクティスを具現化する取り組みに源を発しています。いま一度INFOSTAの原点に立ち戻り、DX推進に関わるコミュニティ・オブ・プラクティスを、多くの方々のご協力を得ながら形成してまいりたいと思います。
コロナ禍を経て社会の変化がさらに加速し、将来に向けた不安を感じていらっしゃる方は少なくないと思います。こうした状況の中、「ともに学ぶ仲間がいる」ことが、何よりも力強い心の支えになるという確信を、皆様との対話を重ねることで得ることができました。INFOSTAが会員の皆様にとってそのような存在でありつづけることができるよう、微力ながら意を尽くしてまいる所存です。引き続き皆様のご協力を賜りたく、どうぞよろしくお願いいたします。また、2月末までINFOSTAの役員の推薦・立候補を受け付けております。INFOSTAのミッションの実現にお力をお貸しいただける方々のご応募を、心よりお待ちしております。
2023年が、皆様にとって素晴らしい一年となることを祈念いたします。
2023年元旦