- INFOSTAにおける新たな認定試験の実施について -

社団法人 情報科学技術協会

社団法人情報科学技術協会(INFOSTA)は、現行の「データベース検索技術者認定試験」および「情報検索基礎能力試験」を改訂し、きたる2003年度から新しい名称および内容の新試験を実施することになりましたので、ここに会員の皆様ならびに一般の方々にお知らせいたします。皆様方のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

1.試験を改訂する理由

1.1 試験の開始およびその後の経緯
(社)情報科学技術協会は、1979年に日本オンライン情報検索ユーザ会(OUG)を発足させ、各種データベースのオンライン検索の技術について討議し研究を重ねてきたが、データベース検索に関する社会的なニーズに対応して、1985年に「データベース検索技術者認定試験」を初めて実施した。初年度は2級のみで翌年から1級の試験が加えられた。2級は筆記、1級は筆記(一次)と面接(二次)の各試験である。この試験の目的は「オンライン・データベースの検索技術者に必要とされる知識・技能を客観的に認定し、その能力に対する社会的認識を高めるとともに、その資質ならびに知識・技能の向上を図ること」であった。この試験は通称サーチャー試験とよばれ、1989年度から2000年度までは、旧科学技術庁の認定を受けていた。試験開始後、企業、団体、大学、研究機関、図書館などにおけるデータベース検索の必要性および重要性が増すにつれて、あるいは世の中で資格取得の願望が高まるにつれて受験者数も増加して行った。
 また、当協会は1993年度から「情報検索基礎能力試験」を実施してきた。この試験は「データベース検索技術者認定試験」が検索技術者(代行検索者、以下サーチャーと呼ぶ)のレベルを認定するものであるのに対して、「データベースを効果的に検索、活用するための基礎的知識の保有者を客観的に認定し、その能力に対する社会的認識を高めること」を目的としている。この基礎能力試験には社会人や学生の受験者が多い。
 2001年度までの合格者数の累計は、2級4000名、1級238名、基礎能力4061名となっている。合格者の多くは企業・団体・大学の図書館・情報センターをはじめ情報関連部門で大いに活躍している。


1.2 サーチャーを取巻く環境の変化

 「データベース検索技術者認定試験」が始まって20年近く経過する間に、サーチャーを取巻く情報環境は著しく変化してきた。サーチャーの仕事内容が変化し、従来に比べてより高度な業務を要求されることが多くなってきた。この間の情報検索の環境変化をみると、CD-ROM検索の増加、インターネットによる検索の一般化、文字情報からマルチメディア情報への発展、二次情報から一次情報の利用へ、といった変遷がある。
 特にインターネットの普及により、情報の収集、検索、利用、発信の態様は大きく変わった。これらのことをエンドユーザ(情報利用者)自身が行うという状況が一般化したのである。これは企業などの組織内活動に留まらず、一般市民層の日常生活にも及んでいる。インターネットによって情報の収集、利用の問題が解決されたわけではなく、逆に多くの問題が顕在化するようになった。エンドユーザはインターネットによる検索を行う場合に何万件という検索結果に悩まされたり、適切な情報を見過ごしたりしているのである。得られた情報から信頼性の高いものを選定、評価し、多くの情報を加工、組織化することにも技術やノウハウが必要なのである。
 このような状況に対応して、特定のデータベースあるいは情報検索システムに習熟し、情報検索の技術をもっているサーチャーは、新たな情報専門家としての役割を担うこととなった。
情報の収集、検索、利用、発信に関する適切な案内者、助言者、教育者、調整者、すなわち、コンサルタントあるいはコーディネータとしての役割が重要になってきたのである。
 また、データベース検索をはじめとする情報検索技術の基礎的知識を普及させて、インターネットによる検索を行うエンドユーザが適切に対応できるように、現行の基礎能力試験に相当する試験の受験対象者を拡大し、試験の一層の普及を図ることが重要だと考えられる。こうすることによって、情報部門などでリーダーとして活躍している合格者たちの後継者をより多く社会に送り込んで、情報検索に関する社会的ニーズに応えることができるからである。
 当協会は、以上のような環境変化に対応して、情報の収集、検索、分析、発信のための技能とコンサルティング能力の保有者を認定する新たな試験制度が必要になると判断し、このたび「データベース検索技術者認定試験」および「情報検索基礎能力試験」を改訂して新試験として発足させることを決定した。

1.3 改訂に至る経緯
 これまでも試験開始後から小規模の手直しは随時行ってきたが、2000年度データベース試験実施委員会が、新しい試験範囲および内容の構想案を2000年8月に理事会に提出した。
試験改訂の要請が高まる中で2001年7月に新試験委員会が発足し、前述の構想案なども参考にしながら検討を重ね、2001年12月に報告書を完成した。報告書は一部修正された後、2002年3月の理事会で承認された。これを受けて新試験実施委員会が2002年8月に発足し、現在新試験実施に向けて活動中である。


2.試験の種類と内容

2003年度から新しくスタートする(社)情報科学技術協会の認定試験制度では、1)「情報検索基礎能力試験(略称:基礎能力)」、2)「情報検索応用能力試験」の2種類の認定試験を実施する。「情報検索応用能力試験」には2級と1級を設け、それぞれ「情報検索応用能力試験2級(略称:応用2級)」および「情報検索応用能力試験1級(略称:応用1級)」と名づける。以下にその各々について、試験の目的、試験の領域と内容、合格者の技術水準および2002年度まで実施してきた資格認定試験との関連性などを説明する。

2.1 情報検索基礎能力試験

目的は、情報を効果的に検索し、それを活用するための基礎的知識の保有者を客観的に認定し、その能力に対する社会的認識を高めることにある。試験の領域および内容を表1に示した。

 共通問題は、情報一般、情報検索およびそれに必要なコンピュータや通信についての基礎的知識を問うものとする。
 選択問題のAコースは、従来の「情報検索基礎能力試験」と同様に、将来、情報専門家をめざす者を対象とし、上位試験である「情報検索応用能力試験」のための予備コースと位置づける。具体的には、目録や分類、シソーラス等の情報管理に関する知識、データベースに関する知識を問うものとする。一方Bコースは、一般的な情報リテラシー能力についてのコースである。その内容としては、検索された情報の評価や加工、新たな情報発信などの情報の活用に関する知識、ワープロや表計算ソフトといったソフトウェアの利用に関する知識を問うものが設定されている。主として、Aコースは図書館情報学の学科・課程の学生、情報学関連を専攻する学生および企業の情報管理部門の担当者などを対象としている。またBコースは教養教育の一環として情報リテラシー教育を受けた一般の大学生や社会人などを対象としている。
 試験は短時間の筆記試験のみを実施する。両コースとも従来の基礎能力試験に比較して問題の領域は広がっているが、その難易度は、2002年度まで実施した「情報検索基礎能力試験」と同等とし、大学の1、2年生で取得可能なレベルとする。



2.2 情報検索応用能力試験
 目的は「情報検索およびその結果の評価、加工に関する知識・技能ならびに企画力およびコンサルティング能力を客観的に認定し、その能力に対する社会的認識を高めるとともに、その資質ならびに知識・技能の向上を図ること」である。資格として2級と1級を設け、2級は特に受験資格を問わないが、1級受験者は2級試験合格者に限るものとする。ただし、2002年度までに「データベース検索技術者認定試験2級」に合格した者は、「情報検索応用能力試験1級」の受験資格を有する者と認める。それぞれの試験の領域および内容を表2に示した。


2.2.1 情報検索応用能力試験2級
試験は1日間の筆記試験のみを実施する。出題の内容としては、ITに関する知識としてコンピュータ、通信技術,およびインターネットに関する知識が問われる。情報検索技術に関するものとして、情報源、データベース、検索システム、具体的な検索技術に加え、情報要求者とのコミュニケーション能力などについて問うものとする。主題に関する知識、英語能力、情報流通に関する知識と応用力も問われる。また、論文作成能力を問う問題も設定されている。従来の試験の難易度は2002年度まで実施した「データベース検索技術者認定試験2級」と同等とし、情報検索業務に従事している者、および情報検索に関心の深いエンドユーザが取得可能なレベルとする。


2.2.2 情報検索応用能力試験1級
1級の出題の対象領域は上記2級と同様であるが、それぞれの領域において問われる知識や応用力のレベルが、より高いところに設定されている。1級では専門分野別試験を導入し、専門分野の法規に関する知識や最新の技術動向など、高度な専門性が問われる。また、教育・指導能力として、エンドユーザ教育、サーチャー教育、インハウスにおける教育についての企画・指導能力も問われる。試験は一次試験として1日間の筆記試験を実施し、その合格者に対して二次試験としての面接試験を行う。一次試験は共通問題とし、広く種々の専門分野に共通の設問や、当然知っておくべき個別の設問を出題するほか、専門別ごとを対象とした論文形式の試験を実施する。専門分野としては、「ライフサイエンス」、「化学」、「特許」、「ビジネス」の4分野のほかに、広い分野を対象とした「総合」を設け、合計5分野とする。論文の課題を試験当日に示すが、辞書・参考書の類は試験会場に持ち込みを許可し、主として受験者の考え方を問うための論文を出題する。
 二次試験の面接では、一次試験の結果、特に提出した論文を中心とした口頭試問を行うほか、情報検索関連業務についての考え方や企画力、プレゼンテーション能力なども問うものとする。

3.受験のすすめ

 先に述べたように、これからの情報専門家はコンサルタントあるいはコーディネータとして一層役割が重要になる。すなわち、「多岐の分野のユーザから依頼された情報を検索し、検索結果を評価、加工することに加えて、ユーザの最終目的を理解し、その目的に到達するための協力者として仕事をすること」が求められる。これまでは、情報の仲介者的な立場であったが、今後はユーザの仕事が完成するまで共に歩むメンバーの一員としての情報専門家が必要とされるのである。
 「データベース検索技術者認定試験」に替わる「情報検索応用能力試験」を実施することにより、このような能力を有する情報専門家を認定することができる。また、「情報検索基礎能力試験」の内容を発展的に改訂することにより、より多くの人々が情報検索の基礎的知識を身につけるような試験を実施することができる。
当協会は、「情報検索応用能力試験」と「情報検索基礎能力試験」の2種類の新試験を実施することによって、現代社会に生きる人々が必要な情報を迅速に効率的に入手し、有効に活用することを支援していく。
 皆様方はこれらの試験を受験することによって、自分の情報および情報検索に関する知識・技術レベルあるいは守備範囲の拡大を確認することができるほか、種々の職業に就く機会を拡大することが期待できる。情報専門家は、企業・団体・大学の図書館・情報センターや、特許部門、企画部門、調査部門、研究開発部門、営業部門などでの活躍が大いに期待できる。試験合格者に対する求人広告は協会の会誌にもしばしば掲載されている。
皆様方が是非一度受験されて、自分の知識や技術の不足分は補い、得意な部分はますます伸ばすというアクションに結び付けて自己の向上を図ることによって、自分に適した職場を見つける可能性を拡大されることを期待して、ここにINFOSTAの新たな認定試験の実施についてお知らせする。




表1:情報検索基礎能力試験の領域および内容

(1) 設問はすべて選択式。
(2) 設問は共通問題、選択問題とする。選択問題はコース別問題とする。
(3) コースは次の2 つとする。
A:検索技術者向けのコース:旧来の情報検索基礎能力試験に対応させ、上位の資格のための予備的コースとする。
B:情報リテラシー能力についてのコース
(4) 問題の難易度は現在の情報検索基礎能力試験と同等とする。大学の1ないし2年生で取得可能なレベルとする。
(5) 主として、Aコースは、図書館情報学関連の学科・課程の学生や企業の情報管理部門の新人を対象とし、Bコースは、教養教育の一環として情報リテラシー教育を受けた一般の大学生を対象として想定する。

 テーマ表

テーマ
共 通
 1) 情報の生産と流通に関する知識
  ・情報の種類、一次情報と二次情報
  ・情報の収集・整理・蓄積
  ・情報とデータの組織化
  ・分類と索引
  ・情報サービス機関(図書館等)の役割

 2) 情報の検索と利用に関する知識
  ・情報源(データベース含む)の特性とその内容
  ・情報検索の方法
  ・情報サービス機関の利用法
 3) コンピュータに関する基礎知識
  ・ハードウェアのしくみ
  ・ソフトウェアのしくみ
  ・コンピュータ通信のしくみ

 4) インターネットに関する基礎知識
  ・電子メール、WWW
  ・TCP/IP
  ・サーチエンジン

 5) 情報社会に関する基礎知識
  ・情報政策、情報倫理
  ・セキュリティ
  ・知的財産権
選 択 A コース:情報検索 B コース:情報リテラシー
 6) 情報管理に関する知識
  ・目録記述の規則と標準化
  ・分類法、索引法、抄録作成法
  ・シソーラス、件名標目

 7) データベースに関する知識
  ・データベースの歴史と種類
  ・データベース作成方法
  ・データベースの提供
 6) 情報の活用に関する知識
  ・情報の評価
  ・情報の加工
  ・情報の発信
 
 7) ソフトウェアの利用
  ・ワープロ
  ・表計算ソフト
  ・プレゼンテーション用ソフト
  ・DBMS


表2:情報検索応用能力試験の領域および内容

区  分 1    級 2 級
ITに関する知識 ・通信技術に関する知識
・インターネットに関する知識
・セキュリティに関する知識
・コンピュータに関する知識
・通信技術に関する知識
・インターネットに関する知識
情報検索技術に関する知識と実践 ・情報源の選択および経済的評価能力
・専門別データベースに関する知識
・高度な検索技術の実施能力
・情報要求者とのコミュニケーション能力
・情報源の選択能力
・データベースに関する知識
・検索システムに関する知識
・コマンド、検索式、キーワード、シソーラス等の検索技術に関する一般的知識
・情報要求者とのコミュニケーション能力
主題知識と応用 ・専門分野の主題知識
・専門分野の法規制に関する知識
・専門分野の最新知識の把握
・専門分野周辺領域の主題知識
・専門分野の検索主題の解析能力
・出力結果の分析能力
・専門分野のサーチエイドに関する知識
情報源と情報流通の知識と応用 ・専門分野の情報源に関する知識
・データベース構築に関する知識
・ホームページ作成に関する知識
・著作権に関する知識
・情報の流通に関する知識
・ホームページ作成に関する一般的知識
・著作権に関する一般的知識
英語能力 ・情報検索に関する英文解読力
・主題専門分野の英文解読力
・英語での情報発信能力
・英文データベース出力の解読力
・英文マニュアルの解読力
論文執筆および
プレゼンテーション
・小論文執筆能力
・プレゼンテーションメディアの作成能力
・口頭発表能力
・思考過程を簡潔に表現する文章作成能力
教育・指導能力 ・エンドユーザー教育の企画・運営能力
・サーチャー教育の企画・運営能力
・インハウスにおける教育・企画指導能力

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