「情報の科学と技術」2016年2月号 (66巻2号). 特集= 図書館の価値 再考

特集:「図書館の価値 再考」の編集にあたって

2016年2月号は,「図書館の価値 再考」という特集です。私たち編集委員は,科学技術や学術情報流通等の最新動向を伝えるため,どのような特集テーマを設定するか,それをどういった切り口にするかということを毎号考えていますが,その議論の中でふと,根本的な問いに立ち返ることが多々あります。この特集はもともと,「図書館のサービスや存在意義は数値化できるか?」という疑問が発端でした。しかし例に漏れず,その内容・構成について話し合いを進めていくうちに,特に数値化ということには拘らず,それよりもデジタル化時代を迎えた現在,図書館そのものが存在する価値や意義を率直に捉えてみようという,大きな,しかし重要な方向に議論が収束し,図書館の価値を改めて考える特集を組むことにしました。
ただし図書館と言っても,大学図書館,専門図書館,公共図書館など複数の館種があります。また図書館における「価値」や「意義」というものも,提供されるサービスの価値であったり,そもそも図書館が存在する意義のほか,その存在意義を固め,そして高めるための仕組み,あるいは新たな存在価値を作り出す活動など観点は様々にあります。
そこで本特集では,永田治樹氏による総論に続いて,小陳左和子氏からは大学図書館間あるいは図書館と国立情報学研究所等の諸機関の連携について,市古みどり氏からは大学図書館と学術研究支援活動について論じていただき,そこから図書館の価値,意義を捉えることとしました。また,山崎久道氏からは専門図書館の存在意義について,そして山本順一氏からは米国の動向を踏まえた公共図書館の在り方等について執筆いただきました。
図書館の価値を考えるということは非常に大きなテーマであり,今回の特集以外にも多くの見方,捉え方があり得ると考えています。一方で,このような根源的な事柄について,落ち着いて考える時間が日常的にない方が実際は多いのではないかとも思っています。そのためこの特集がこれからの図書館の在り方を考えるきっかけとなり,今後の図書館を前向きに捉えられ,そして「図書館の価値 最高」に近づくことができるための契機となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:中村美里(主査),福山樹里,古橋英枝,松林正巳,吉井由希子)

図書館のインパクト―図書館の意義をデータで実証する

永田 治樹 情報の科学と技術. 2016, 66(2), 54-59.
ながた はるき 筑波大学名誉教授
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
E-Mail: nagata.haruki.ff@u.tsukuba.ac.jp        (原稿受領 2015.12.6)
社会発展や,情報技術の急速な進展によって,図書館の価値がこれまでのように自明とはみなされず,その果たす役割が問われるようになった。本論は最初に,図書館のインパクトを紹介した国際規格ISO 16439:2014(図書館インパクト評価のための方法と手順)を取り上げる。次いで,学生の学習成果に関する分析事例を検討し,図書館の意義を実証するためのインパクト評価に,これまでのメトリクスだけでなく,種々の外部データを取り込んでデータにおける意味のあるパターンを発見・提示するというアナリティクスの適用を示唆する。
キーワード:図書館評価,図書館インパクト,図書館価値,ISO 16439:2014,アナリティックス,学習成果へのインパクト

大学図書館の「連携・協力」

小陳左和子 情報の科学と技術. 2016, 66(2), 60-66.
こじん さわこ 大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)事務局
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2 国立情報学研究所
E-Mail:kojin@nii.ac.jp       (原稿受領 2015.12.3)
大学図書館が大学の教育研究活動を支える基盤であるためには,他館との相互協力が不可欠である。大学図書館間のネットワーク形成にあたっては,国公私立大学図書館協力委員会や国立・公立・私立大学の各図書館協(議)会といった組織体,また,長年学術コンテンツ事業を行っている国立情報学研究所が,大きな役割を果たしている。
本稿では,現在これらの関係組織の間で,活動体制・枠組みの再構築が進められている,1)電子資料に関するコンソーシアム,2)機関リポジトリの推進,3)総合目録データベースNACSIS-CATの再構築,といった3つの事例を紹介することにより,最近の大学図書館における連携・協力の動向を概観する。
キーワード:大学図書館,国立情報学研究所,連携・協力推進会議,国公私立大学図書館協力委員会,大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE),機関リポジトリ,総合目録,NACSIS-CAT

大学図書館による研究支援の可能性

市古みどり 情報の科学と技術. 2015, 66(2), 67-71.
いちこ みどり 慶應義塾大学日吉メディアセンター
〒223-8521 横浜市港北区日吉4-1-1
Tel. 045-566-10430 E-Mail: midori@lib.keio.ac.jp       (原稿受領 2015.12.3)
本稿は慶應義塾大学における研究支援部門と図書館の関わりを振り返り,今後さらに図書館が研究支援にどのように関わることができるか,その可能性について検討する。図書館によるこれまでの研究支援活動の中心は,資料の収集と提供であった。オープンサイエンス時代を迎え,図書館への期待は高まっている。それに応えるためには,資料を核とするサービスから図書館(員)の持つ機能・知識・技術を活かしたサービスへの転換が必要である。当面,大学内での役割としては,リエゾンやコーディネーターが考えられる。
キーワード:大学図書館,研究支援,オープンアクセス,オープンサイエンス,リエゾン

専門図書館の意義―その価値とインパクト―

山﨑 久道 情報の科学と技術. 2016, 66(2), 72-77.
やまざき ひさみち 中央大学
〒192-0393 東京都八王子市東中野742-1
Tel. 042-674-3744 E-Mail: hyama@tamacc.chuo-u.ac.jp        (原稿受領 2015.11.10)
専門図書館の意義(価値やインパクト)は,さまざまな手法で明らかにされてきた。どの先行研究や調査を見ても,投入した費用より多くの便益や利益が得られるとされている。しかしながら,科学技術分野を除くと,外部からの評価は厳しく,専門図書館にとっては,組織内や組織外に対して,自らの意義を明確に提示して,存在意義を納得してもらうことが重要である。そのためには,(1)自分たちの価値を(効果的に)伝えること,(2)組織で,今何が進行しているかを把握すること,(3)プロセスを管理すること,(4)仕事上の能力を維持すること,(5)意思決定にすぐ使える情報を提供すること,が重要であるとされている。
キーワード:専門図書館,価値評価,ROI,CVM,戦略

日米比較にうかがえる社会的制度としての公共図書館の現在と近未来の盛衰

山本 順一 情報の科学と技術. 2016, 66(2), 78-83.
やまもと じゅんいち 桃山学院大学教授
〒594-1198 大阪府和泉市まなび野1-1 桃山学院大学経営学部
Tel. 0725-54-3131 E-Mail: june01@andrew.ac.jp        (原稿受領 2015.11.7)
本稿は,OCLCの「世界図書館統計」やアメリカ連邦政府の労働統計局の統計,そして博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum and Library Services)の『アメリカの公共図書館調査 2012会計年度』とピュー調査研究センター(Pew Research Center)が2013年に公表した『デジタル時代における図書館サービス』等を用いてアメリカ公共図書館の実態を数値で明らかにしつつ,21世紀の専門職ライブラリアンに求められる知識とスキルを確認しようとし,日本の公共図書館界の現実と重ね合わせ,「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)が提示する基本的方向性と一致することを確認しながら,日本にはアメリカのような(専門職)ライブラリアンの知識とスキルを育て,専門職を活かす社会の仕組みが十分には整っていないことを指摘し,このままでは日本の公共図書館総体の近未来が決して明るいものではないことを述べた。
キーワード:図書館員の待遇,ライブラリースクール,博物館・図書館サービス機構,ピュー調査研究センター,図書館の設置及び運営上の望ましい基準

次号予告

2016.3 特集=「研究倫理」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論:研究不正とは何か
  • 各論1:研究データガバナンス
  • 各論2:企業・研究機関の具体的な取り組み、海外動向
  • 各論3:査読に関する問題
  • 各論4:学生への倫理教育、研究者が日常の研究で気を付けていること
  • 連載:情報分析・解析ツール紹介

など