2015. 06 特集= 学術情報の電子化

特集 : 学術情報の電子化

今月は,「学術情報の電子化」をテーマにお送りいたします。
現在,学術情報は海外を中心に電子化が進んでいます。一方,国内においても,様々な取り組みが行われ,徐々に電子化が進みつつあります。そこで,本特集では,学術情報の電子化に携わっている方から,電子ジャーナル,学術書の電子化,学術情報を電子化する上で必要不可欠な著作権の動向,大学教育の電子化,学会における電子化の取り組みについて執筆していただきました。
まず,学術情報の電子化の代表的な例としては,電子ジャーナルがあげられます。ところが,近年,電子ジャーナルを取り巻く状況や問題点は複雑化しつつあります。そこで,上田修一氏には,インフォプロの方が理解しておくべき電子ジャーナル状況及び問題点について広く,そして非常に明快に論じていただきました。
続いて,学術情報の一端を担う学術書に目を当てると,学術書(とりわけ大学の教科書)の電子書籍化は,一般書の電子書籍化と比較すると国内においてはあまり進展しているとは言い難い状況です。橋元博樹氏には,学術出版社の視点から,学術書市場をとりまく状況や学術書の電子書籍化の可能性について論じていただきました。
一方,学術情報を電子化する上で,著作権の問題は避けては通ることのできない問題です。例えば,国内でもデジタルアーカイブを推進する動きがありますが,この際にも膨大な著作権処理の問題などが指摘されており,著作権制度についての議論や見直しが行われています。南亮一氏には,学術情報の電子化を行う上で非常に重要となる著作権の最新動向について,歴史的経緯も踏まえつつ論じていただきました。
ところで,学術情報の電子化は,電子ジャーナルや学術書以外の領域でも行われています。近年では,米国を中心に大規模公開オンライン講座(MOOC)が急速に進展しています。船守美穂氏には,大規模公開オンライン講座(MOOC)を軸として,従来まで大学の教室で行われていた大学教育が,いかにしてデジタル空間に移行しつつあるのか,さらにその先にある可能性について論じていただきました。
最後に,日本の学会における電子化の取り組みとして,日本動物学会の活動に注目しました。現在,日本動物学会では,学会誌に掲載された論文のデータベース「ZooDiversity Web」の構築事業を行っています。そこで,嶋田大輔氏・片倉晴雄氏・武田洋幸氏・阿形清和氏・永井裕子氏には,「ZooDiversity Web」の構築過程を通じて,単に論文を電子化してデータベースに収録するのではなく,研究者のみならず様々な人々に対する情報発信を強化するために行った新たな試みや,構築時の様々な問題点について論じていただきました。
このように学術情報の電子化は非常に広範なテーマではありますが,本特集を通じて,インフォプロの方々が今後の学術情報の電子化を考察する際の一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:田口忠祐(主査),立石亜紀子,中村美里,鳴島弘樹)

学術情報の電子化は何をもたらしたのか

上田 修一
うえだ しゅういち 立教大学文学部
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
Tel. 03-3985-2202        (原稿受領 2015.3.15)
電子ジャーナルは,学術情報を伝えるメディアの電子化の代表例である。大規模な大学や研究所に属している研究者は,快適な環境で電子ジャーナルを使っている。電子ジャーナルには,年間契約,閲覧時課金,オープンアクセス誌,機関リポジトリなど独特の利用法と課金の方法がある。学術雑誌の出版社は,技術革新の成果と包括契約のような新しいビジネスモデルを採用することによって,電子ジャーナルを開発してきた。包括契約の下で,利用者は大量の雑誌を利用できることに満足しているが,その一方では,出版社は毎年,電子ジャーナルの価格を上げている。最後に,この問題が起こった原因を論じた。
キーワード:学術情報,学術雑誌,研究者,科学出版社,電子ジャーナル,オープンアクセス,包括契約,ビッグディール,閲覧時課金,エルゼビア

学術書市場の変化と電子書籍

橋元 博樹
はしもと ひろき 一般財団法人 東京大学出版会
〒153-0041 東京都目黒区駒場4-5-29
Tel. 03-6407-1069        (原稿受領 2015.4.13)
学術コミュニケーション界,出版界ともにデジタル化が浸透していることは疑いようもない事実である。しかしこのふたつの領域で活動している学術出版社による電子書籍ビジネスは期待されているほど進んでいるわけではない。出口がみえないと言われる出版物販売額の低迷,すなわち「出版不況」のなかで,その一端を占める学術書市場はどのような状況にあるのか。本稿では学術出版社の活動に焦点をあて,大学教科書と大学図書館の印刷本市場を概観し,電子学術書の可能性を探る。
キーワード:大学教科書,図書館,学術出版,大学出版,電子学術書,学術コミュニケーション,出版産業

日本における学術情報の電子化に関する著作権の動向

南  亮一
みなみ りょういち 国立国会図書館関西館
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-7
Tel. 0774-98-1328        (原稿受領 2015.4.13)
日本における学術情報の電子化に関する著作権の動向につき,学術情報の電子化と著作権との関係について説明した上で,その円滑化のための問題点を提示した。そして,日本におけるこれらの問題点を解決するための検討につき,この問題が意識される以前からのものを含め,詳細に説明した。
キーワード:学術情報,電子化,デジタル・アーカイブ,著作権,孤児著作物,著作権者等不明の場合の裁定制度,集中許諾制度,CCライセンス,権利情報の集約化,拡大集中許諾制度,図書館

デジタル空間に移行する大学教育

船守 美穂
ふなもり みほ 東京大学教育企画室
〒113-8654 文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-1683        (原稿受領 2015.3.13)
大規模公開オンライン講座(MOOC)は2012年に米国のエリート大学を中心に生み出され,世界的に一世を風靡した。この動きは,cMOOC,反転授業,パーソナライズド学習,ラーニング・アナリティクス,高等教育のアンバンドリングなど,デジタル時代の新たな学習方法にスポットライトを当てていったが,これは振り返ってみると,これまでの計算機やインターネットの発達とともに幾たびとなく取り上げられては,消え入っていた取り組みであった。しかし時代の進行とともに,これら取り組みは実質度を増し,着実に社会に定着している。本稿では,MOOCを軸に,これらデジタル時代における大学教育の学習形態等について紹介し,近未来の大学教育像を提示する。
キーワード:デジタル時代,大学教育,大規模公開オンライン講座(MOOC),連結主義,反転授業,ブレンド型学習,ラーニング・アナリティクス,パーソナル学習,アダプティブ学習,高等教育のアンバンドリング

ZooDiversity Web (ZDW)-Zoological Science
デジタル論文DB構築による,生物多様性の具現化を目指して

嶋田 大輔1),片倉 晴雄2),武田 洋幸3),阿形 清和3),永井 裕子4)
1)しまだ だいすけ 慶應義塾大学
2)かたくら はるお 北海道大学大学院
3)たけだ ひろゆき,あがた きよかず 京都大学大学院
4)ながい ゆうこ 公益社団法人 日本動物学会
〒113-0033 東京都文京区本郷7-2-2 本郷MTビル4階
Tel. 03-3814-5461        (原稿受領 2015.3.23)
日本動物学会は,学会誌であるZoological Scienceに掲載された約4,000本の論文をデータベース化し,本学会の140年にわたる生物多様性研究を容易に把握することが出来るシステムの構築をめざしている。データベース名称は,ZooDiversity Web(ZDW)である。研究者の関心を満たすものであると同時に,一般の方々が利用できるような工夫も行っている。動物群ごとの検索機能を柱とする本データベースにアクセスすることで,利用者は,日本動物学会が追及して来た多様な動物の営みやその在り方を知ることが出来る。なお,本活動は,平成25年度国際情報発信強化(B)の採択を5年受けている。
キーワード:Zoological Science,生物多様性,日本動物学会,論文データベース

次号予告

2015.7 特集=「特許調査の現状と課題」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論:特許調査の現状と課題
  • 各論1:電気分野における特許調査の現状と課題
  • 各論2:化学分野における特許調査の現状と課題
  • 各論3:機械分野における特許調査の現状と課題
  • 各論4:海外特許調査の現状と課題
  • 各論5:特許調査に用いる特許情報の現状と課題

など