- 特集:「インフォプロと地域活性化」の編集にあたって
………199
- コンテンツと地域振興を論ずるための基礎構築と,エクスペリエンスへの眼差しの提案
五十嵐大悟………200
- 地域活性化に寄与する公共図書館の役割
嶋田 学………206
- 宇佐市民図書館の活動と地域活性化
島津 芳枝………212
- 農家と地域の元気を応援する,農文協の二つの専門図書館と二つの専門書店
福田 徹哉………218
- 知的財産権を利活用した地域活性化の取り組み
正林 真之………223
- まちのたねと市民参加による地域アーカイブ
平良 斗星………229
- 2014年度検索技術者検定 合格者(その2)
………233
- 協会だより
………234
- 編集後記
………236
特集 : インフォプロと地域活性化
今月の特集は,「インフォプロと地域活性化」をテーマにお届けいたします。
地域の自主性及び自立性を高めることを目指して地方分権に関する議論が続いている中で,地方自治を担う地域住民に,地域の事情に合わせた,地域が求める情報が十分に提供されているかが問われています。
そこで,地域の特性を活かした情報はいかに活用されるべきか,インフォプロが地域で必要とされるにはどうあるべきかを検討するために,地域活性化にはどのような要素が必要で,そこにかかわるインフォプロの役割とは何かについて議論することを企図して,本特集を企画しました。
総論では,地域活性とは何なのか,その前提となる議論を,アニメやキャラクタ・コンテンツによる地域おこしの研究に関わっている五十嵐大吾氏に論じて頂きました。私たちインフォプロが地域活性に携わるにあたり,理解しておくべき現状をまとめていただいています。
つづいて瀬戸内市新図書館開設準備室の嶋田学氏からは,公共図書館が地域に寄与するために必要な考え方を包括的に論じて頂きました。「地域活性化」の定義と公共図書館との接点について,大変明快にまとめて頂き,インフォプロにとって直接的に指針になる内容となっています。
宇佐市民図書館の島津芳枝氏と,農山漁村文化協会の福田徹哉氏からは,実際の図書館における取組事例をご紹介頂きました。宇佐市民図書館は大分県にある中規模公共図書館ですが,今回取り上げていただいた事例以外にも大変特徴的な取り組みに次々と挑戦されている図書館です。図書館には地域に寄与できる様々な可能性があることを示してくださっています。また農文協図書館は,食や食文化という生活の根幹をなす農業・漁業などの産業を支援する取り組みを通して,地域を元気にする活動に長年取り組まれています。公共図書館では,ビジネス支援サービスが注目されていますが,専門図書館とも産業支援の面で連携できる可能性が示されたのではないでしょうか。
次に図書館を離れた2つの各論のご紹介です。正林国際特許商標事務所の正林真之氏からは,知的財産権を活用した地域振興の取り組みについてご紹介頂きました。知的財産権をどのように活用すればよいのかを平易に解説していただいたのみならず,地域活性化とは誰が何のために取り組むべきものなのか,そのヒントを提示してくださっています。
最後に平良斗星氏からは,地域アーカイブである「まちのたね」の活動をご紹介頂きました。市民がマスメディアとは違う視点から,真に地域に必要な情報を残すためにアーカイブする,という活動を通して,地域の未来をつくっていくことの意義に触れていただいています。
地域活性化の主役は地域住民であり,その一員であるインフォプロが何をすべきか,様々な示唆を得られる特集になりました。ご執筆くださったみなさまに,この場を借りてあらためてお礼を申し上げます。
(会誌編集担当委員:立石亜紀子(主査),小山信弥,齊藤泰雄,長屋俊)
コンテンツと地域振興を論ずるための基礎構築と,エクスペリエンスへの眼差しの提案
五十嵐 大悟*
*いがらし だいご アニメーション製作会社所属
〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学人文社会系土井裕人研究室
Tel. 029-853-4265
E-mail. s1010007@gmail.com (原稿受領 2015.3.16)
成長産業として捉えられている「コンテンツ」を地域振興に活用しようという動きが見られるが,本論ではコンテンツの語彙を精確に定義し,かつそれに包含され得ない生の体験を,エクスペリエンスという語を以って定義することで,健全な議論の基礎を構築する。更に情報の社会的性質を示し俯瞰的に論じる。その上で筆者が学術的フィールドワーク及び,アニメーション製作の実務経験を元に,コンテンツを用いる地域振興においてはコンテンツとエクスペリエンスの双方の視点から実践,研究する必要性とアイディアを示す。本論は,地域における情報のハブを構築する実務にてプラクティカルに活用できる知見の提供を行う。
キーワード:地域振興,町おこし,アニメーション,コンテンツ,萌えおこし,ゆるきゃら,コンテンツツーリズム,オタク,社会情報学
地域活性化に寄与する公共図書館の役割
嶋田 学*
*しまだ まなぶ 瀬戸内市新図書館開設準備室
〒701-4222 岡山県瀬戸内市邑久町豊安85-3-302
Tel. 0869-24-1137 (原稿受領 2015.2.20)
地域活性化に寄与する図書館の役割は,どのような地域社会を作り上げていくのかという構想づくりに役立つことである。その第一は,地域社会の特色を理解すること。第二は,その地域とっての活性化をどのように構想するかである。地域社会には,地方自治体としての特色,地場産業に代表される経済的な特色,また歴史や文化,あるいは自然,地理という特色もある。そうした地域性を踏まえた資料や情報の提供を通じて,住民の思考や議論を支援することが,地域の活性化に寄与することになる。画一的な活性化ではなく,その地域ごとの発展を検討し,諸活動を支援することが公共図書館としての役割である。
キーワード:公共図書館,図書館政策,図書館サービス,地域活性化,公共政策
宇佐市民図書館の活動と地域活性化
島津 芳枝*
*しまづ よしえ 宇佐市民図書館(大分県)
〒879-0453 大分県宇佐市大字上田1017-1
Tel. 0978-33-4600 (原稿受領 2015.3.2)
地域には様々な情報が埋まっています。図書館はそれらを掘り起こして市民に提供することができます。
現地に行かなければ入手できない観光チラシを,住んでいる図書館で入手できる「観光交換展示」という活動があります。サッカーの試合に合わせて地域資源である温泉と「温泉日本一」をかけて展示するという「図書館で温泉ダービー」を実施しました。
また,国東半島宇佐地域が世界農業遺産に認定されたことから,文科省の委託を受け,宇佐市民図書館の資料と付属施設を活用し,宇佐市の米作りの歴史やブランドづくりの動きなどを企画展や講座で紹介し,情報提供・情報発信するプログラムを実施しました。世界農業遺産はまだ情報が少なく,活動記録を残すことも,地域活性化につながる情報提供になると考えています。
キーワード:世界農業遺産,大分県,温泉,サッカー,大分三井,図書館,米穀検査,地域活性化,宇佐市,観光交換展示
農家と地域の元気を応援する,農文協の二つの専門図書館と二つの専門書店
福田 徹哉*
*ふくだ てつや 一般社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1
Tel. 03-3585-1142 (原稿受領 2015.2.27)
農文協は「農文協図書館」(1982年~)開館後,農業の専門書店「農業書センター」(1994年~)を千代田区大手町の旧JAビル内に開店させ(現在は神田神保町にて営業),その後「ルーラル電子図書館」(1996年~),通販専門の書店「田舎の本屋さん」(1997年~)を開設スタートさせてきた。現在は二つの専門図書館と二つの専門書店を農と食の総合情報拠点として位置付け,利用者,読者に連携して応えていく活動を展開している。
「農家を減らさない」「農家の元気を育てる」ことこそ「地方創生」の根源に据えるべきであり「地域活性化」はこのことを抜きにしては考えられない。農文協図書館には地域と農家の元気を育てる実践的な情報がたくさんある専門図書館だ。農村を中心とした地域活性化につながる実践的なテーマに応えるレファレンスと蔵書の充実が農文協図書館の役割といえる。
キーワード:農文協図書館,ルーラル電子図書館,地域,田園回帰,地域再生,農業書センター,田舎の本屋さん
知的財産権を利活用した地域活性化の取り組み
正林 真之*
*しょうばやし まさゆき 正林国際特許商標事務所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー
Tel. 03-6895-4500 (原稿受領 2015.2.27)
知的財産権というのは,知的財産権の効力の傘の下で産業を発展させることができる点で地域活性化のために有益であるのは言うを待たないが,それだけでなく,知的財産権を取得する過程で得られる知見,気付きや経験,スキルといったものも,実際には地域活性化のために有益である。特に,地域団体商標に係る商標権の取得プロセスを通じて,独占排他権たる商標権が得られるだけでなく,その地域の独自性やユニークさを適格に見出すことができる。そしてそこで得られた経験やその過程で作られた組織,規定,並びに最終的に得られた商標権は,その独自性を発展させ,地域を豊かにする際にも役立つ。
キーワード:商標,商標の機能,品質保証機能,地域団体商標,地域の独自性,ユニークな部分を磨き発展させる,権利の活用,特許
まちのたねと市民参加による地域アーカイブ
平良 斗星*
*たいら とうせい 合同会社戦略コンセプト研究所
〒903-0824 那覇市首里池端町34 2F
Tel. 090-9675-8876 (原稿受領 2015.3.16)
地域における情報の蓄積と発信を効果的に行うためには,地域内で起こっている事象を事実に即して記録していくことが重要である。「まちのたね」という投稿型ウェブサイトは,50文字という限られた文字数に事実を3つ記録するという手法で,市民によるアーカイブを一定品質にすることを企図している。当プロジェクトは,API等データを再活用するためのプログラムを多数準備し,投稿されたデータは,オープンデータとして許諾権処理されアーカイブの再活用性を上げている。
事実に則したアーカイブが様々な事業に活用されることで,質の高い地域の「物語」を発信し,かつシビック・プライドを守る情報システムを目指している
キーワード:地域情報化,アーカイブ,市民参画,市民メディア,スマートフォン
次号予告
2015.6 特集=「学術情報の電子化」
(特集名およびタイトルは仮題)
- 各論1:日本における学術情報の電子化の状況
- 各論2:学術出版者による学術書の電子化について
- 各論3:デジタルアーカイブにおける資料の電子化と法整備について
- 各論4:授業(講義)の電子化について
- 各論5:学会における電子化の取り組みについて
など