Vol. 56 (2006), No.12
皆様の机は片付いていますか? 私の同僚には「机の上にはものを置かない」と決めている人がいます。その同僚の机と書類の散乱している私の机を見比べますと,同じ机かとついつい疑ってしまうような有様です。また,書類の散乱している机では,仕事の効率も良くありません。今日の仕事のうちで,必要な書類を探した時間はどのくらいになるのでしょうか。考えるだけでもうんざりしてしまいます。
人の情報処理能力には限界があるため,情報を有効に活用するには多くの情報の中から必要な情報を取捨選択し,「いらない情報を捨てる」ことが必要です。とはいうものの,「いらない情報を捨てる」ことは簡単なことではありません。安易に捨ててしまって後悔した経験や,逆になかなか捨てられずに使わないものに場所を占領されてしまい,必要な情報が必要な時に取り出せずに困った経験はだれしも思い当たるところだと思います。また図書館では,限られたスペースのなかで資料の廃棄を迫られ,どのように蔵書を持つことが最も効果的か,という方程式に日々頭を悩ませている方もいらっしゃると思います。
ところが,何を捨てるかをめでたく決めることができたのに,「いざ捨てよう」という状況になってなお,はたと立ち止まってしまったことはありませんか? 近年,名簿等に記載された個人情報や顧客情報が悪用される事件が続いている状況から,何を捨てるかだけでなく,適切な廃棄方法も選ばねばならないからです。
そこで,今回は「資料・データを捨てる」と題して,増え続ける文書,データ,図書,資料等の処分について特集してみました。特集にあたっては,理論から実例まで,また「個人情報保護」「リサイクル」といった近年のキーワードも絡めて概説していただきました。
本特集が,皆様の業務効率化の一助になりましたら幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:塩見万里子,上村順一,大田原章雄,川瀬直人)
中島 康比古*
*なかじま やすひこ 独立行政法人国立公文書館
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園3-2
Tel. 03-3214-0621(原稿受領 2006.10.11)
大量に生み出される情報のうち,何を残し,何を捨てるべきなのか。組織の活動の証拠として作成される記録の中から永久的に保存すべきものを選び出すアーカイブズの世界の評価選別論を紹介する。第三者の利用価値を重視したシェレンバーグ,記録作成時の社会の価値観を分析するよう説いたブームスらの議論のほか,「マクロ評価選別」論を概観する。また,近年注目されている「レコード・コンティニュアム」の理論やそれを実践的方法論に変換したDIRKS方法論,さらに,アカウンタビリティを記録管理の目的として位置づけるISO15489について検討する。その上で,組織がアカウンタビリティや透明性を求められる現代社会において,記録や情報をどのように評価選別すればよいのか,その基本的な在り方を論じる。
キーワード: アーカイブズ,記録,評価選別,マクロ評価選別,レコード・コンティニュアム,DIRKS,ISO15489,JIS X 0902-1
小谷 允志*
*こたに まさし 日本レコードマネジメント(株)レコードマネジメント研究所
〒101-0048 東京都千代田区神田司町2-2
Tel. 03-3258-8671(原稿受領 2006.9.27)
オフィスでは膨大な数の文書が日々発生している。文書の氾濫を防ぎ,情報活用の生産性を向上させるためには,的確な文書のライフサイクル管理の仕組みが導入され,維持されなければならない。そして,そのプロセスの中で適切に廃棄が行われることが必要である。本稿では概括的な廃棄の基準と,保存期間満了後の廃棄基準とを区別し,的確なライフサイクル管理の中での廃棄と,その前提となる保存期間設定の考え方について述べる。併せて機密文書の廃棄方法にも触れる。
キーワード: 処分,廃棄,レコードマネジメント,アーカイブズ,ライフサイクル管理,保存期間,説明責任,ISO15489,機密文書
藤原 静雄*
*ふじわら しずお 筑波大学法科大学院
Tel. 050-5518-2671(原稿受領 2006.10.12)
文書にライフサイクルがあるように個人情報にもライフサイクルがある。文書・資料の管理はそのサイクルに合わせて考える必要がある。また,個人情報保護法制には「目的拘束」という法制度を貫く原則が存在するが,管理も当該文書を作成・取得した目的との関係で行う必要がある。個人情報保護法制の下での文書管理・資料管理,とりわけ文書の廃棄に際しては,民間部門のガイドライン等で用いられている基準を参考にすることが考えられる。さらに,文書管理・資料管理の問題は技術的な側面が強調されがちであるが,個人情報保護の観点からは,技術は手段であり,目的は個人の権利利益の保護にある点に留意すべきである。
キーワード: 文書管理,資料管理,個人情報保護,安全管理措置,セキュリティ
鈴木 克彦*
*すずき かつひこ 石川島播磨重工業梶@技術開発本部 管理部
〒235-8501 神奈川県横浜市磯子区新中原町1番地
Tel. 045-759-2218(原稿受領 2006.9.21)
図書館においては,現実問題として収容能力の限界から図書廃棄を優先して考えざるを得ない一面もあるが,この一局面だけに捉われ過ぎては危険である。本来ライブラリアンは,利用者の視点に立ち,その利便性を考慮し,図書館サービスの向上に努めることを,第一に考えるべきである。石川島播磨重工業葛Z術情報センターでは,この観点も含め資料ごとに廃棄基準を定めている。2006年4月の当社の新本社ビル完成に伴う廃棄作業では,この基準に従って約 15,000冊の図書,雑誌等を廃棄した。なお当社は,廃棄にあたり,環境に十分考慮している。
キーワード: 図書廃棄基準,企業図書館,情報管理,図書管理,IT,電子化,石川島播磨重工業技術情報センター
顧 文君*
*こ ぶんくん (財)日本科学協会
〒107-0052 東京都港区赤坂1-2-2日本財団ビル5階
Tel. 03-6229-5364(原稿受領 2006.9.21)
日本科学協会は,日本で処分される図書を収集し,アジア近隣諸国の大学・研究機関に国境を越えて寄贈し,教育・研究への活用を通じて国際的な情報共有の促進,相互理解の深化,友好親善の増進を図る「教育・研究図書有効活用プロジェクト」を推進している。当面は,中国の24大学に対象を絞って実施しているが,これまでに合計で約147万冊の図書を要望に基づき寄贈した。日本国内では再活用の場を見出し難かった図書を海外に移して,新たな使命と有効な活用・管理・保存の場を与えるこのプロジェクトは,図書資料の活用・管理・保存におけるグローバル化の一端を担うものであると考える。
キーワード: 日本科学協会,日本財団,処分,図書寄贈,中国,大学,活用,管理・保存,情報共有,グローバル化
仲嶋 伸明*
*なかじま のぶあき オリエント測器コンピュータ(株)
〒160-0023 大阪市中央区城見1-2-27 クリスタルタワー35F
Tel. 06-6966-1665(原稿受領 2006.10.11)
情報漏洩事故の裁判における損害賠償額の判例を紹介して情報漏洩対策の必要性を喚起することと,日本国内のセキュリティ対策の現状,電子情報技術産業協会が発表したパソコン消去のガイドライン,アメリカ国防総省のハードディスクのデータ消去,総務省のガイドライン,金融庁が施行を検討の金融商品取引法の内部統制など日本のセキュリティに関する動向を紹介して,電子記録媒体を記録方式別に,磁気記録,光ディスク,半導体メモリーにそれぞれ分けて,ソフトによる上書き消去,磁気消去,物理破壊,光ディスクの破壊,シュレッダーによる破壊について解説を行い,あわせて情報消去後のリサイクルに関しても言及する。
キーワード: アメリカ国防総省,電子情報技術産業協会,消去,パソコン,ハードディスク総務省,内閣官房情報セキュリティセンター,消磁,物理破壊,CD
樫村 雅章*
*かしむら まさあき 慶應義塾大学HUMIプロジェクト
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1646(原稿受領 2006.9.20)
貴重書のデジタルファクシミリでは,全ての画像で品質が高いだけでなく一定となっていることが重要であり,撮影の際ばかりでなく,デジタルファクシミリ用に画像を制作していく過程でも,そうしたことを考慮した方法をとる必要がある。HUMIプロジェクトでは,業務用デジタルカメラの撮影で得られたRAW 形式データや現像済みのフィルムから,デジタルファクシミリ用画像を制作する過程を大きく3つの段階に分けて,一次画像データを得た後,中間画像ファイルの作成を経て,最終的なデジタルファクシミリ用画像を完成する,というようにしている。今回は,冊子本のデジタルファクシミリを制作する際の手順を,流れにそって1つずつ概説する。
キーワード: デジタル画像,デジタルファクシミリ,貴重書,デジタル現像,フィルムスキャン,カラープロファイル,アンシャープマスク
岡田 英孝*
*おかだ ひでたか 東京医科大学図書館
〒163-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1
Tel. 03-3342-6111 ex.5623(原稿受領 2006.10.5)
MEDLINEでは1980年代より訂正記事情報に対する取り組みがされているが,その現状について東京医科大学図書館分館で受け入れた2003年出版の冊子体の訂正記事データを用いて調査した。調査対象は114タイトル901件で,これらのデータとPubMedのデータを比較した。訂正記事の収録率は約80%で,著者名など書誌データに関わる訂正では書誌データ自体訂正されている例も見られた。収録率は過去の研究と比べても上がっており,また訂正記事情報に容易に到達できるように様々な工夫もされているが,未収録の訂正記事の存在や書誌データ自体の表記のゆれといった問題も見られたため,利用の際は注意が必要である。
キーワード: 訂正記事,論文撤回,差替え論文,二重投稿,コメント,PubMed,MEDLINE