Vol. 56 (2006), No.11
「Web 2.0」という用語が新聞記事にも取り上げられるようになってきています。
Web 2.0について現時点で明確な定義をすることはできませんが,「次世代Web」と呼ばれることもあるように,World Wide Webの様々な側面の変化を総称した表現であり,多様なコンセプトや技術を含んでいるといえるでしょう。近年急速に浸透しつつあるBlogやRSS, SNS,Wikiなどのサービスや技術はWeb 2.0の要素と見なされることが多いようです。
この特集ではまず,Web 2.0のコンセプトや技術を概観し,それらが図書館や情報流通にどのような影響を与えるのかを考察していただきます。
その上で,Web上で提供される図書館サービスの中核となる蔵書検索システム(OPAC)は,Web 2.0時代にどのように対応していくのか。OPACのこれまでを振り返りながら,少し先の未来まで展望していただきます。そして,貸出記録という「集合知」を利用したOPACの開発例もご紹介いたします。
また,学術情報配信におけるWeb 2.0要素の取り込みについて,RSSを中心に,PodcastやBlog,Wiki,Social Bookmarkについても具体例を挙げながら解説をしていただきます。
最後に,図書館員が実際に広報の一手段としてブログ・サイトを立ち上げた例をご紹介いたします。ブログならではのスタイルや機能を生かした広報について考察していただきます。
この特集がWeb 2.0の理解に役立ち,新たな時代におけるアクションの参考になれば幸いです。
(会誌編集委員会特集号担当委員:大田原章雄,木下和彦,関戸麻衣,堀恭子)
岡本 真*
*おかもと まこと ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
URL:http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/ARG/
(原稿受領 2006.8.22)
図書館関係者向けに行った講演をベースに,図書館がWeb2.0に対応するためにとるべき方策を論じる。前半部ではWeb2.0とは何か,という問いを BlogやRSS,SNSの具体例を紹介しながら論じ,Web2.0における重要概念であるCGMの意義を述べる。後半部では,図書館は依然として Web2.0以前の段階にあり,Web2.0に対応していくには,利用者を巻き込んだサービス像の転換が必要であることを指摘する。その上で一例として貸出記録を活用することで,オンライン書店Amazonに比肩する図書館サービスの実現可能性を示唆し,そのために図書館が乗り越えるべき課題を指摘する。
キーワード: Web2.0,ティム・オライリー,図書館サービス,レコメンド,貸出記録,OPAC
武田 英明*
*たけだ ひであき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2543 (原稿受領 2006.8.29)
本稿ではWebの普及以来変化した情報流通のあり方について概観する。Webによって情報流通は従来のマスメディアによる集中かつトップダウン型情報流通から分散かつボトムアップ型へ変化した。この結果,一方でロングテールと呼ばれるかつてない多種多様な情報の流通を可能とし,一方でボトムアップな集約型情報流通も可能としている。このような情報流通を理解するには単に情報の収集,生成,公開といった情報利用活動だけでなく,人々の関係性に基づくコミュニケーションの活動も視野に入れて見ていく必要がある。
キーワード: 情報流通,World Wide Web (Web, WWW),Web 2.0,学術情報
黒澤 公人*
*くろさわ きみと 国際基督教大学図書館
Tel. 0422-33-3668 (原稿受領 2006.8.22)
「Web2.0」という言葉は,これからの社会のあり方を多くの人々に考えさせる機会を与えた。今までの図書館システムとデータは,個々のシステムの更新にともなって,システムの再構築,データの再編成がなされてきたが,「Web2.0」的図書館システム観では,長期間にわたり継続使用ができるようになる。図書データも,全文フルテキストデータやイメージデータを持つ超巨大データベースが出現しており,今後図書館システムとの連携が期待される。図書をスキャンする技術も向上し,個人が電子図書館を構築することも可能になるだろう。
キーワード: Web2.0,フラットフォームとしてのWeb,全文図書データベース,スキャン技術,図書館システム,電子図書館
當山 仁健*
*とうやま よしたけ 沖縄国際大学
〒901-2701 沖縄県宜野湾市宜野湾2-6-1
Tel. 098-892-1111(原稿受領 2006.8.24)
OPACでの検索の際,複数の利用者が同一の検索質問を用いたとしても,利用者のプロフィール(知識世界,背景等)が異なれば,検索質問で表現を試みている概念は異なり,情報要求も異なることが多い。そこで,検索結果を利用者のプロフィールに合わせて調整することにより,利用者満足度の高いOPACの構築が期待できる。また,従来の文字列検索によるOPACでは柔軟性に乏しく,情報検索の道具としては不十分である。これらを踏まえ,沖縄国際大学図書館において,適合性判断基準の一つとして貸出履歴を利用したOPACを実装した。本システムでは柔軟な検索結果が得られるよう,従来の文字列検索ではなく連想検索技術を用いている。
キーワード: OPAC,情報検索,貸出履歴,貸出情報,連想検索,利用者志向,沖縄国際大学図書館
伊藤 勝*
*いとう まさる 潟iレッジワイヤ
〒160-0022 東京都新宿区新宿1-3-8 YKB新宿御苑ビル IMBオフィス323
Tel. 03-5367-1969 (原稿受領 2007.8.16)
World Wide Webの創始者,Tim Berners-Leeは,Webを研究者のためのコラボレーションツールとして開発した。現在話題になっているWeb2.0も,学術情報流通の世界を見れば,すでに10年以上前からそのコンセプトを同一にするものが登場している。Web2.0が持つ「協働と共有」という志向性は,学術情報流通と極めて親しいものである。本稿では最近の学術情報配信におけるWeb2.0への取り組みをRSSなどの具体的な応用例を中心に紹介する。
キーワード: 学術情報,Web2.0,学術出版社,RSS,Podcast
山崎 裕子*
*やまざき ひろこ 東京大学総合図書館
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-2635(原稿受領 2006.9.6)
ブログは管理が容易なウェブサイトの一種で,現在国内ユーザ数が急速に増加しているが,国内の大学図書館でブログを運営している所はまだわずかである。本稿ではその一例として,2005年9月から2006年6月まで運営されたブログ「東大薬学図書館にっき」を紹介する。東京大学薬学図書館職員(筆者・当時)がブログを開始した意図,学内業務の一環として開始した経緯,ブログツールの選定方法,図書館内外の出来事を取り上げた記事の内容,ドメイン別・月別などに分類したアクセス状況,リンクやトラックバックなどのブログ機能の活用状況について概説し,大学図書館におけるブログの意義について考察する。
キーワード: ブログ,ウェブログ,トラックバック,フィード,広報,ネチケット,東大薬学図書館にっき
樫村 雅章*
*かしむら まさあき 慶應義塾大学HUMIプロジェクト
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1646(原稿受領 2006.9.20)
慶應義塾大学HUMIプロジェクトは,グーテンベルク聖書をはじめとする世界的に重要な貴重書のデジタル化を,それらの貴重書を所蔵する海外の図書館との国際協力によって実現してきた。今回はまず,そうした活動を開始することとなった経緯やその後の展開,および,対象としてきた貴重書について紹介する。続いて,海外図書館との貴重書デジタル化のための協同プロジェクトが,実際にはどのように進められていくのかについて,手順を追いながら説明する。
キーワード: HUMIプロジェクト,貴重書,デジタル化,海外図書館,グーテンベルク聖書,初期印刷本,奈良絵本,撮影遠征
時実 象一*
*ときざね そういち 愛知大学文学部
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1
Tel. 0532-48-0111 (原稿受領 2006.9.22)