Vol. 56 (2006), No.9
ふだん当たり前と思っている業務の話題も,他館種の図書館員,他業種の人と話すときには用語から説明しなければならない,ということは結構あるのではないでしょうか?
自分の館では一般常識であることが,別の館種の人にとっては初耳であったり,用語が違うだけで実は同じようなことをしていたりと,相互理解がなかったが故に無駄なことをしてしまうようなこともあるでしょう。
館種,ときには業種を超えた研修・団体活動に参加すると,ユーザやリソースの違いからくる自らの価値観を,あらためて客観視することはよくあります。また,新しいサービスのアイデアが生まれたり,モチベーションを高めるきっかけになることも多くあります。こうしたメリットは自組織の中にいるだけでは得がたいものです。
そこで,今回は「価値観の交差点」と題して,主題や地域を軸に,館種や業種を超えて行われている図書館員や情報担当者の交流をとりあげることにしました。
また,誌面の都合で掲載はかないませんでしたが,今回の特集で取り上げたほかにも,INFOSTAにはSIGやOUGがあります。関連して,先月の本誌56(8)では第1回「情報活動研究会」の開催報告がありました。
交流の機会をつかむための情報源としては,本誌のほか,
・INFOSTA,サーチャーの会,日本図書館協会,専門図書館協議会等のメールマガジンやサイト
・『図書館年鑑』巻末の「図書館関係団体」
・各種学会系メーリングリスト,メールマガジン
などがありますので,ご覧になってみて下さい。
今回の特集が,自ら交差点に立ち,組織の枠を超えて価値観を大きく広げたい,という読者の方の背中を押すものになれば幸いです。
(会誌編集委員会特集担当委員:吉間仁子,上村順一,及川はるみ,関戸麻衣,深澤剛靖)
岡本 真*
*おかもと まこと ACADEMIC RESOURCE GUIDE
http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/ARG/
mail:zd2m-okmt@asahi-net.or.jp(原稿受領 2006.6.26)
図書館や情報センターが価値観の交差点に立つことで,自らの活動を振り返り,サービスの不足や欠如に気づき,改善へとつなげていくサイクルを論じる。特に館種や業種を超えて価値観の交差点に立つための必要条件,価値観の交差点での出会いを継続性や発展性があるものにするための条件,そして一連のサイクルを維持するうえでの注意点を述べる。
キーワード: 交流,ビジネス支援,法支援,医療支援,図書館の自由,ビジョン,ミッション
大矢 直子*
*おおや なおこ ミサワホーム(株)商品開発部 ジニアス・アーバンデザイングループ 住データ室
〒168-0072 東京都杉並区高井戸東2丁目4-12 地下1階
Tel. 03-3247-2164(原稿受領 2006.7.19)
「人と人との交流」の1事例として,筆者が参加している「複写と著作権メーリングリスト(Copy & Copyright ML)」について,体験的に述べる。企業内専門図書館は,著作権法第31条で複製権を認められる対象となっていない。このMLは,企業内専門図書館の従事者らによる,複写と著作権を主題とした,オンラインのコミュニティーである。情報交換・意見交換の場として,活発に先鋭的に活動している。情報交換・意見交換の場として,参加をお勧めする。情報流通の早さと質の高さを挙げる。運営方針に,オフライン活動が重要な機能を果たしている可能性も指摘する。
キーワード: ML(メーリングリスト),著作権,複写,オフ会,コミュニティー
山田 いづみ*
*やまだ いづみ 医療法人大雄会 能力開発部(図書室)
〒491-8551 愛知県一宮市桜1-9-9
Tel. 0586-24-2698
E-mail iyamada@daiyukai.or.jp (原稿受領 2006.7.4)
生物医学系情報分野の図書館員やその専門家は継続的な知識習得が常に求められる。それらの情報はインターネットを通じて入手することが可能であるが,人と人を介したインフォーマルなネットワークによって情報共有はより強化される。それを実現しているのが毎年1回開催される医学情報サービス研究大会である。「Learning from each other!」というスローガンの下に館種を越え,参加者個人の意志によって作られてきた。単に演題発表の場としてではなく,生物医学系情報専門家のための交流の場としての役割を担ってきている。本稿では筆者の参加履歴を交え,当大会で得られる人的交流について焦点を当てる。
キーワード: 医学情報サービス研究大会,人的交流,インフォーマルコミュニケーション,情報共有,専門図書館員
北澤 京子*1,石井 保志*2
*1きたざわ きょうこ 日経BP社
〒108-8646 東京都港区白金1-17-3
Tel. 03-6811-8388
*2いしい やすし 東京医科歯科大学附属図書館
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
Tel. 03-5803-5596
(原稿受領 2006.7.18)
『健康情報棚プロジェクト』はそのユニークな活動を通じて,これまで「ありそうでなかった」健康・医療情報提供の一分野を切り開きつつある。公共図書館や患者図書室等に「闘病記文庫」というモデルケースを設置し,健康・医療情報コーナーに発展させようとする構想は,図書館員・医療者・患者当時者・古書店主など多くの職種のノウハウが集結されている。患者・家族へのわかりやすい情報提供をミッションに,情報ニーズの把握からデータベース開発を実現するため,メンバーでアイディアと労力を出し合い,外部諸団体との共同研究を積極的に推進してきた。健康情報棚プロジェクトのこれまでの歩みと,協力者との交流についてまとめる。
キーワード: 健康情報棚プロジェクト,健康・医療情報,闘病記,パラメディカ,闘病記ライブラリー,新書マップ,東京都立中央図書館,Narrative-Based Medicine
小林 康隆*
*こばやし やすたか 聖徳大学日本文化学科
〒271-8555 千葉県松戸市岩瀬550
Tel. 047-365-1111(原稿受領 2006.7.20)
TP&Dフォーラム(整理技術・情報管理等研究集会)は,図書館分類法,Indexing理論,情報検索,情報管理,目録法などの研究領域に関心を持つ研究者や実務家が集まり,日頃の研究成果を発表し,そのテーマに関する論議を重ねると共に,宿泊の場を通じての各種情報交換,交流をその趣旨として,1991年の第1回より毎年開催されている。TP&Dフォーラムの基本コンセプトは,一言で言うなら,「研究と交流」である。このコンセプトは,日本の図書館界に数ある研究会の中で特に貴重な特長となっている。さらに,TP&Dフォーラムは,今後継続的な研究グループとして成長していく可能性も期待される。
キーワード: 整理技術,情報管理,ドキュメンテーション,情報組織化,インデクシング,図書館分類法,目録法
杉山 宗武*1,石定 泰典*2,吉井 良邦*3
*1すぎやま むねたけ 大阪大学附属図書館
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-4
Tel. 06-6850-5060
*2すぎやま むねたけ 神戸大学附属図書館海事科学分館
〒658-0022 神戸市東灘区深江南町5-1-1
Tel. 078-431-6236
*3よしい よしくに 大阪市立大学学術情報総合センター
〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138
Tel. 06-6605-3230
(原稿受領 2006.6.20)
2005年6月に近畿地区において,国立,公立,私立という大学設置形態の枠組を超えた図書館の協力組織が立ち上げられた。協力組織の名称は「大学図書館近畿イニシアティブ」(略称「近畿イニシア」)であり,運営委員会のもとに2つの専門委員会を置いて活動を開始した。組織立上げの準備段階から初年度の事業である初任者研修(能力開発専門委員会担当)と広報検討活動(広報検討専門委員会担当)の展開に深く関わった筆者たちがこれまでの活動をレビューし,今後の事業展開についての展望を述べる。
キーワード: 大学図書館近畿イニシアティブ,近畿イニシア,初任者研修,能力開発事業,大学図書館の地域での共同事業,広報活動,大学図書館員の能力開発,大学コンソーシアム京都,KIRALI
樫村 雅章*
*かしむら まさあき 慶應義塾大学HUMIプロジェクト
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1646 (原稿受領 2006.7.18)
慶應義塾大学HUMIプロジェクトは,グーテンベルク聖書を対象として貴重書のデジタル化に関する研究に着手し,画像入力方式の選択や特製機器の開発などで試行錯誤を繰り返しながら,独自の貴重書撮影手法を確立してきた。HUMIプロジェクトの貴重書撮影手法について2回にわたって解説していくが,今回はまず,特製ブック・クレイドル開発までの撮影方法の変遷を簡単に紹介する。続いて,HUMIプロジェクトの開発による特製ブック・クレイドルや特製カメラ架台を用いた,冊子本のデジタルファクシミリ用画像の撮影手法について,撮影セットの組み立てや撮影手順などの具体的な解説を行う。
キーワード: HUMIプロジェクト,ブック・クレイドル,貴重書,デジタル化,デジタルファクシミリ,撮影手法,カメラ架台,標準色票,グーテンベルク聖書,冊子本