Vol. 56 (2006), No.2
公共図書館界では「ビジネス支援サービス」を筆頭に「医学医療情報」など,自館の特色を明確に打ち出して存在をアピールする動きが増えてきています。また,国公立大学図書館などでは母体機関の法人化に伴い,長中短期的目標の明示と結果開示が求められるようになってきました。専門図書館では成果主義という「結果を出す」ことが求められます。
社会や組織へ存在意義をアピールすること,運営目標を立てること,いずれも根源的には自館のアイデンティティ,ミッションが明確であることが必要でしょう。自館のアイデンティティとはなにか,それをふまえてどのような計画を立て,アクションへつなげるか。
アイデンティティを明確にし,ビジョンを設定し,スタッフ間で共有してこそ,ぶれない図書館運営がなされるのではないでしょうか。
海外事情を織り交ぜた総論を掲載予定でしたが,残念ながら盛り込めませんでした。今号では,自館のアイデンティティ,ミッションを捉え,運営につなげている3館の取り組みをご紹介いたします。
自館の存在意義再確認のご参考となれば幸いです。
(会誌編集特集担当委員:及川はるみ,上村順一,大田原章雄,堀恭子)
鈴木 良雄*
*すずき よしお 神奈川県立川崎図書館
〒210-0011神奈川県川崎市川崎区富士見2-1-4
Tel.044-233-4537(原稿受領2005.12.12)
神奈川県立川崎図書館は公立図書館でありながら,自然科学,工学,産業関係の専門的資料を有する図書館として知られている。昭和33年の図書館設置時に図書館の目的として,「自然科学および工業」に関する資料の収集を位置付けられた。開館後は自然科学・工学・産業関係資料の重点を置いた収集を進めた。これがアイデンティティの基本としてその後も大いに影響を与えた。ユニーク資料として特許資料を整備するとともに,社史などを鋭意収集し全国的なコレクションを構築した。平成10年には「科学と産業の情報ライブラリー」としてリニューアルを実現し,発展を続け,平成17年には「ビジネス支援室」を開室させ公立図書館を取り巻く環境変化の中,新たな時代への挑戦を続けている。
キーワード: 神奈川県立川崎図書館,公立図書館,科学と産業,情報ライブラリー,特許資料,社史,神奈川県資料室研究会,クラスタ,ビジネス支援,サービス・パッケージ
小林 麻実*
*こばやし まみ アカデミーヒルズ六本木ライブラリーディレクター。コンサルタント。
連絡先〒106-6149東京都港区六本木6-10-1六本木ヒルズ森タワー49階森ビル株式会社 六本木ヒルズ運営室 アカデミーヒルズ事業部
Tel.03-6406-6223(原稿受領2005.11.18)
アカデミーヒルズ六本木ライブラリーの創設は,誰からも理解されず賛同も得られなかった個人の夢を,諦めずに粘り強く抱き続けて現実に移した苦闘の歴史である。既存の海外・国内の図書館の事例を全く真似することなく,ゼロベースでライブラリーの本来あるべき姿・存在意義をただ一人で研究してきた個人のクリエイティビティの帰着点ともいえる。したがって独自のアイデンティティを構築しているのは当然である。このようなアイデンティティの構築過程においては,いまだ誰も見たことのない世界,および想像のつかない顧客層を自ら作り出していく信念を維持できるか,与えられた環境をその信念とどのように適合させていくことができるか,という2点が鍵となる。
キーワード: 図書館の存在意義,情報への効率的アクセス,アイデンティティ,企業の境界,読書空間としてのライブラリー,場,ナレッジ・マネジメント,ヴァーチャル・ライブラリー,ゼロベース思考
山口 直比古*
*やまぐち なおひこ 東邦大学医学メディアセンター
〒143-8540東京都大田区大森西5-21-16
Tel.03-3762-4151内線2441(原稿受領2005.11.28)
東邦大学では,全学組織としてのメディアセンターを設立し,従来の図書館情報サービスの枠を拡大する形で,その存在意義を学内外へ向けアピールしてきた。『非来館型電子図書館の構築』を目指して電子データベースや電子ジャーナルの導入を図り,『知識ベースとしてのメディアセンターつくり』を目指して機関レポジトリを計画している。そのための組織の改編も行ってきた。幸い利用者や大学当局の理解を得ることができ,計画は進んでいるが,将来の予算など問題もある。
キーワード: 東邦大学メディアセンター,非来館型電子図書館,知識ベース,機関レポジトリ,バーチャルラボラトリ