Vol. 56 (2006), No.1
他人に何かしらの情報を伝えるとき,例えば業務の引継ぎという場面を考えたときに,定型的な業務であれば,詳細な手順書を作成すればよいと思われがちです。しかし,どのような作業や業務においても,手順書にある手順どおりに作業できることや,教わった通りに繰り返すことと,手順を理解することとの間には,大きな断絶があると思います。
その断絶を補完する情報として,各人が持っている「ノウハウ」があると考えます。しかし,このノウハウというものは,経緯や原因が分かってこそ,効果を発揮するものです。そのような事態に対応するためには,作業や業務そのものをより深く理解することが必要です。
つまり,伝えるべき情報を的確に蓄積し,それを共有(周知徹底)し,正しい理解のもとに伝達する(伝えていく)こと,これが手順の理解の重要な点,ノウハウを生かすべき点です。それらによって,情報を受け継いだ側が,どのような状況にも対応できるような,素地を構築できるようになると考えます。
そこで,「ノウハウの蓄積と伝達」というテーマの下,蓄積・共有・伝達という3つの観点からそれぞれの勘所・注意点をまとめていただきました。読者の皆さまの,日常業務の情報共有や情報伝達のお役に立てられれば幸いです。
(会誌編集特集担当委員:上村順一,川瀬直人,高島有治,深澤剛靖)
宗 裕二*
*そう ゆうじ (株)日本能率協会コンサルティング
〒105-8534 東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー35階
Tel.03-3434-7331(原稿受領 2005.10.26)
近年,常識と成りつつあるISOマネジメントシステムでは,組織が行うべき文書管理について幾つかの規格要求事項を規定している。文書管理に関して見たとき,その中心となるべきはISO9001品質マネジメントシステムであろう。本稿では,ISO9001品質マネジメントシステムの文書管理に関する要求事項について解説すると共に,組織で行われている文書管理の実例を引用し,文書管理の実際的方法について解説する。その他,ISO13485, ISO22000などのISO9001と関連の深いISOマネジメントシステムの文書管理について,その要求事項との違いも考察する。
キーワード: ISO,品質,マネジメントシステム,医療機器,食品安全,文書管理,記録管理,ISO9001,ISO13485,ISO22000
青山 裕大*
*あおやま ゆうた アクセンチュア(株) 通信・ハイテク事業本部
〒107-8672 東京都港区赤坂1-11-4赤坂インターシティ
Tel.03-3588-3000(原稿受領2005.10.20)
電子情報を基にしたFAQの作成方法を通して,電子情報の適切な取捨選択と蓄積について記述する。今日,インターネットの普及により日々膨大な電子情報が流通している。情報システムを駆使すれば膨大な情報を分析,公開することが可能であるが,膨大な情報をそのままの形で公開することによりコンテンツの品質低下を招き,ユーザからの信頼を損なう危険性がある。情報システムを駆使することによって膨大な作業でも短時間で処理できてしまう電子情報であっても,全てを情報システムに頼ることなく,情報システムとヒトとの作業配分を適切に行うことによって,効率的でかつ効果の高いコンテンツを提供することが可能となる。
キーワード: 情報システム,電子情報,取捨選択,FAQ,CRM
小林 智子*1, 新井 紀子*2
*1こばやし ともこ 国際基督教大学 総合学習センター
〒181-8585 東京都三鷹市大沢3-10-2
Tel.0422-33-3365
*2あらい のりこ 国立情報学研究所 情報学基礎研究系
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
(原稿受領2005.10.26)
情報検索や文書作成,電子メールのやりとりなど,パソコンに向かって仕事をしている時間が圧倒的に多い現状で,大学の授業や委員会の配布資料や議事録などを,ネットワークを利用することで,いかに効率よく共有し,的確に伝えるかということが重要である。様々なグループウェアやコミュニケーションツールが存在するなかで,NetCommonsは大学やNPOにおけるバーチャルコミュニティ形成を支援することを目標に開発された,オープンソースの情報共有プラットフォームであり,容易な操作でポータルサイトを構築することが可能である。NetCommonsの活用事例として,国際基督教大学における事例を紹介する。
キーワード: オンライン情報共有,コミュニケーションツール,e-ラーニング,グループウェア,ポータルサイト,オープンソース,授業支援
石島 正勝*
*いしじま まさかつ (社)日本経営協会
〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷3-11-8
Tel.03-3403-1472(原稿受領 2005.10.21)
オフィスワークを遂行する上で欠かせない基本情報としてのドキュメント。業務遂行上,適切なその共有範囲はどのくらいか,アクセス権限の付与はどのように行なうべきか。ファイリングシステムの技法に即して考察し,現実的な適用方法について提示する。個人情報保護法などによって,ますます管理徹底が要求されるオフィスのドキュメント管理については,今後の電子化の進展によって,活用としての共有と,機密保護としてのセキュリティを両立させることが不可欠の要件である。これら多様化するドキュメント管理に,インフラとしてのファイリングシステムが果たす役割を明確化する。
キーワード: 形式知,トータル・ファイリングシステム,ISO15489,文書分類,保管単位,機密保護,ペーパーレスファイリング,機密区分,部外秘,e-文書法,電子署名,タイムスタンプ
鈴木 ゆかり*1, 関 美分*2
*1すずき ゆかり *2せき みわき (株)エスエスブレーン研究科
〒430-0901 静岡県浜松市曳馬6丁目25-36
Tel.053-474-3178(原稿受領2005.10.12)
限られた人員構成の中,マニュアルを使って短時間で引継ぎを行い,確実に成果を出していくことを私たちは求められている。しかし,それを可能にしているところはどれぐらいあるのだろうか。なぜうまくマニュアルを活用できないのか。そして,マニュアルを活用していく際,多くの人が見過ごしている点は何なのか。新任者の能力向上に大きな影響を与えるのは直接OJTを行う指導者だといっても過言ではない。そこで指導する側の心構えについて再確認をし,マニュアルについては具体的な事例を用い,活きたマニュアルにするためのコツと,確実に成果を出すための効果的な引継ぎ方法について伝えていきたい。
キーワード: マニュアル作成,マニュアル活用,人材育成,指導育成,引継ぎマニュアル,引継ぎ指導,早期戦力化,活用しやすいマニュアル
片岡 真*
*かたおか しん 九州大学附属図書館利用支援課調査サービス係
〒812-8581福岡市東区箱崎6-10-1
Tel.092-642-2336(原稿受領 2005.10.27)
九州大学附属図書館では,情報検索の結果からの一次資料や関連情報へのナビゲーションを目的として,2005年4月からSerials Solutions社製リンクリゾルバArticle Linkerを導入し,九州大学附属図書館学術情報リンクサービス「きゅうとLinQ」と名付けてサービスを開始した。本稿では,まずこれまでの本学での「きゅうとLinQ」への取り組みを通して,リンクリゾルバのしくみを説明する。そして学術ポータルには,学術情報検索の入口としての機能の他に,情報検索結果から一次資料や関連情報を適切にナビゲートする機能が必要であることを明らかにする。最後に,今後の電子リソースマネジメントの方向性について考察する。
キーワード: リンクリゾルバ,Serials Solutions,きゅうとLinQ,ナレッジベース,OpenURL,CrossRef,Google Scholar,学術ポータル