情報の科学と技術
Vol. 51
 (2001) ,No.11
特集=図書館・情報センターと法制度


特集「図書館・情報センターと法制度」の編集にあたって
 (会誌編集委員会特集担当委員:
  山地康志,重田有美,新保佳子,都築埴雅,遠山美香子, 豊田恭子,松林正己,峯尾幸信,山本和雄)

図書館・情報センターの業務を制度的に考えてみたいと思います。私企業においては,最終的には金銭タームで評価された利潤を最大化することが(すべての指標にはならないにせよ)分かりやすい原理であり,目標であることははっきりしています。一方,別の原理で設けられる組織においては,金銭的な対価を直接の目的とはせず,公衆への奉仕や文化活動などのいわゆる「公益」を目標としている場合も多いことでしょう。特に,制度的な理解は,一般公衆へのサービスをどのように組み立てるのかを考える上で,必須のものです。法律・規則の条文に振り回されるのではなく,「そのこころは」を考える,即ち,制度の趣旨について社会的な意義を考え,深い理解を持つことが,「公益をどのように実現するか」を考える上で非常に重要な要素になると思われます。今回の特集では,図書館業務そのもの,また周辺の関連分野の制度的な側面に光を当て,その意義や目的を解題することを焦点としています。具体的な内容については,各論文によりますが,金銭会計処理を中心とした契約手法,独占禁止法の例外規定としての再販制度,複写・貸出を中心とした著作権の運用及び人権規範を中心とした社会的弱者への対応といった事項を解説していただいております。異色の特集となりましたが,読者諸賢の「多事争論」を期待し,前書きとさせていただきます。

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電子ジャーナル等の電子出版物を,公的機関に導入する際に考えなければならない契約上の問題点
山本和雄* 
*やまもと かずお 千葉大学附属図書館
 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33
 Tel. 043-290-2253(原稿受領 2001.9.18)

公務は法令を遵守して執り行われねばならない。図書館についても例外ではなく,公的機関の図書館活動もまた合法に行われる必要がある。一方,法は過去の蓄積に他ならないため,電子ジャーナルのような新たな事象については必然的に法令適用の妥当性が問われることになる。本稿では,電子出版物,特に電子ジャーナルを公的機関に導入する際に関連する法規や解釈の近況について概括する。

キーワード:電子ジャーナル,電子的出版物,契約,公的機関

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出版物再販制度存廃の攻防
五味俊和* 
*ごみ としかず (社)日本書籍出版協会 専務理事
 〒162-0828  東京都新宿区袋町6
 Tel. 03-3268-1301(原稿受領 2001.8.22)

独禁法の除外規定である再販制度は,出版物の国内定価販売により小部数の多様な出版を可能にし,出版文化に貢献してきた。公取委による著作物再販制度の見直しは,10年余にわたって出版業界を揺るがせ,大きな社会問題となった。この小論は,書籍・雑誌の再販制度見直しの発端と決着について述べる。とくに事態の経過をできるかぎり詳細に記述し,出版物再販制度の意義と役割,海外事情について考察する。出版界は,活字メディア出版物再販制度の弾力的運用と流通改善に取り組んでいる。

キーワード:再販制度,定価販売,活字文化,弾力運用,流通改善,規制緩和

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図書館資料の貸出しと複写の法的裏付けについて
南 亮一* 
*みなみ りょういち 国立国会図書館逐次刊行物部複写課
 〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
 Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2001.9.17)

図書館資料の貸出しと複写を行う場合に関係する法規には,物品の管理手続について定められた法規,物品の売払いの手続について定められた法規,著作権法といった様々な種類の法規がある。本稿では,これらの業務とこれらの業務に関係する法規について,国の機関の場合を例として,やや突っ込んだ考察を行った。

キーワード:貸出業務,複写業務,物品管理法,会計法,著作権法

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外国文献複写と著作権
三浦 勲* 
*みうら いさお 実践女子短期大学
 〒191-0016 東京都日野市神明1-13-1
 Tel. 042-584-5000(原稿受領 2001.8.22)

学術著作権協会が米国CCCの管理著作物の日本における複写許諾の代理権者となったことを契機に,図書館・企業内で行われている文献複写の権利処理が問題となっている。これまで外国文献複写については図書館・情報界で本質論議を欠いていたと思われる。ここではCCC問題に焦点をあてながら,文献複写問題の現状を整理するとともにその問題点を指摘する。

キーワード:CCC,日本複写権センター,著作権等管理事業法,学術著作権協会,文献複写,ドキュメントデリバリー

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障害者サービスの法的根拠
梅田ひろみ* 
*うめだ ひろみ 日本点字図書館
 〒169-8586 東京都新宿区高田馬場1-23-4
 Tel. 03-3209-0241(原稿受領 2001.8.24)

視覚障害や心身に障害のある人々への図書館サービスには,点訳や音声化,あるいは拡大写本といった資料の変換,資料の宅配や郵送貸出があり,また施設設備の配慮も必要である。これらのサービスには「著作権法」や「郵便法」等による一定の制限があり,公共施設の建築基準として「高齢者,障害者が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」等が定められている。また,これらの法的制約は,「図書館法」に定める図書館と,「身体障害者福祉法」に定める視聴覚情報提供施設によって異なってくる。障害者への図書館サービスを進める際に理解しておくべき法規を取り上げ,障害者の情報環境の改善について展望する。

キーワード:図書館奉仕,心身障害者,視覚障害者,著作権法,郵便法,情報アクセス権,障害者基本法,公共図書館,点字図書館

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