情報の科学と技術
Vol. 51 (2001) ,No.9
特集=ポータル
特集「ポータル」の編集にあたって
(会誌編集委員会特集担当委員 :
豊田恭子,北島由紀子,小陳左和子,重田有美,山本和雄, 峯尾幸信)
WEB上にコンテンツが噴き出し混沌がその度合を増すほどに,一方でそれらを何とか利用者に使いやすいように整理しようとするさまざまな試みも発展してきました。今回は,利用者にWEBへの「玄関口」を提供しようとするポータル・サイトを取り上げます。 代表的な総合ポータルは検索エンジン・サイトですが,最近は特定分野や特定利用者に的を絞ったバーティカル・ポータル,略してボータル(Vortal)も,さまざまな分野で同時多発的飛躍的に発展してきています。機能もリンクや検索,ディレクトリなどに留まらず,その分野における外部情報と内部情報の統合や,興味を同じくする人々の間でのバーティカル・コミュニティの形成,大幅なパーソナリゼーション,そしてEコマースにまで発展しているものもあり,多様化高度化の進展はまさに目をみはるばかりです。また企業においては,組織内の知を一元的に管理・運用しようとするEIP (Enterprise InformationPortal) としてポータルを構築しようとする動きも活発化しています。今回の特集では,それら最新の動きを積極的に視野に入れています。 この会誌の読者はこうしたポータルを使いこなす情報検索者でもありますし,またその作成者ともなりうる人々だと思います。ポータルの活用と構築の両面から,その役割と可能性,課題を一緒に考えてみたいと思います。
サービス戦略としての図書館ポータル
永田治樹*
*ながた はるき 図書館情報大学
〒305−8550 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 0298-59-1377(原稿受領 2001.7.13)
ポータルは単なる新規のインターネット・ナビゲーション技術ではない。本論では,まず急激な環境変化の中,多様化したサービスを束ねる設計の必要性を主張する。それとともに,産業の高度化と情報化により進展している,サービスと業務の「アンバンドリング」の動向と,ジョン・ヘーゲル3世(John Hegel V)とマーク・シンガー(Marc Singer)が示した知見に基づき,今後の図書館の主たる業務領域の考察を行い,図書館ポータルは,サービス戦略にとって重要な役割を果たす位置にあることを明らかにする。また,図書館ポータルが実現すべき枠組みを提示する。
キーワード:図書館ポータル,サービス戦略,アンバンドリング,ハイブリッド図書館,インフォメディアリー,アグリゲーター
ポータルサイトを作る
―INIS WebサービスとEnergy Information Sources
米澤 稔*
*よねざわ みのる 日本原子力研究所研究情報部国際情報室
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
Tel. 029-282-5738(原稿受領 2001.7.18)
国際原子力情報システム(INIS)は原子力関係の有用なインターネット上の情報源へのリンク集をINIS Webサービスとして提供している。また,エネルギー技術データ交換(ETDE)計画でもエネルギー分野の有用なインターネット上へのリンク集をEnergy Information Sourcesとして提供している。本稿ではこれらの2つのサービスについて概要を報告する。
キーワード:INIS,ETDE,エネルギー,ポータルサイト,インターネット,情報源,原子力
インフォプロ・コミュニティの創造
―フリーパイント紹介
豊田恭子*
*とよだ きょうこ 潟Vステムディベロップメント
〒104-0061 東京都中央区銀座7-14-7 共栄銀座7丁目ビル 2F
Tel. 03-5148-1001(原稿受領 2001.7.2)
世界で4万人の読者をもつインフォプロのポータル,フリーパイントの紹介。隔週ニュースレターの発行を軸にして,WEBサイトを運営。コミュニティ・メンバーによる自由な議論や情報交換(フリーパイント・バー),プロの書き手によるWEB上のサイトや検索手法の紹介,書評,イベント情報,仕事紹介などが多彩に展開されている。1997年11月,ウイリアム・ハン氏によって設立されてから今日までの発展の経緯と秘訣,および資金繰りの問題などを紹介した。
キーワード:フリーパイント,インフォプロ,ポータル,バーチャル・コミュニティ
ポータル構築ツールと構築事例
茂松 由美子*,佐藤 理**,菊田泰代***
*しげまつ ゆみこ,**さとう おさむ,***きくた やすよ
富士通潟lットワークサービス本部ASP統括部DBサービス部
〒144-8588 東京都大田区新蒲田1-17-25
Tel. 03-3730-3574(原稿受領 2001.7.3)
ポータルサイトを短期間で構築するためのツールについて述べる。会員管理,ストリーミング配信,決済,サイト検索,コンテンツ管理など様々なツールを館林のインターネットデータセンター(IDC)に置いて,24時間365日の監視つきのASP(Application Service Provider)として提供している。これらのツールを活用して構築したBtoC向けポータルサイトの事例として,オンラインブックストアのbk1と知識・情報活用サイトであるJapanKnowledgeを紹介する。
キーワード:ポータル,ASP,IDC,会員管理,認証,ストリーミング,決済,サイト検索,コンテンツ管理,ポータルサイト
企業インフォメーションポータル(EIP)の概要
関孝*,垂水宏明**
*せき たかし,**たるみ ひろあき プライスウォータハウスクーパース コンサルタント
〒150-6014 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー14階
Tel. 03-5798-8224(原稿受領 2001.7.23)
企業インフォメーションポータル(Enterprise Information Portal:EIP)発展の源流を,ナレッジマネジメントとワークプレースからの進化としてとらえることができる。すなわち,企業内の形式知化された多くの情報を活用したい,企業内の色々なアーキテクチャでばらばらのユーザインターフェースを統一化したいといったニーズが,企業間連携,競争のグローバル化,及び情報技術の急速な進展によって,一気にEIPを実装させなければならない状況に企業を追い込んでいる。 EIPが企業へもたらす経済効果に加え,顧客にとっては企業との双方向コミュニケーションが図れる。言い換えると,ナレッジマネジメントとワークプレイスの融合されたEIPが企業戦略にとって重要な役割を果たすことになる。インターネット社会のもと,EIP活用の事例も企業間のグローバルなスピード競争の中で必然的に出てきている。
キーワード:EIP,ナレッジマネジメント,ワークプレイス
ポータルからボータルへ:分野別専門サイトの厳選紹介
関 裕司*
*せき ゆうじ 鰍y会・増進会出版社 経営企画本部広報課
〒410-2141 静岡県田方郡韮山町山木807-4
Tel. 0559-49-5352(原稿受領 2001.6.25)
ウェブでの情報収集の窓口となるサイトを「ポータルサイト」という。大手の総合情報ポータルサイトは検索エンジンサイトに様々な情報サービスが付加されたものがほとんどである。しかしながら一般向けのこのようなポータルサイトではより専門性の高い情報を入手しようとすると意外と使いにくい。そこで専門分野に特化したポータルサイト,すなわち「バーチカル・ポータルサイト」に注目してみよう。取り上げる分野は「総合情報」「政治・経済」「学術」「音楽」「画像」「その他」とした。各分野で使いやすいサイトを国内外から厳選して紹介しよう。
キーワード:インターネット,ウェブ,情報検索,ポータルサイト,検索エンジン,バーチカルポータルサイト
投 稿
英国における学術情報資源提供システム
呑海沙織*
*どんかい さおり 京都大学附属図書館
〒606-8317 京都府京都市左京区吉田本町
Tel.075-753-2622(原稿受領 2001.6.29)
高等教育における変革期の中,英国では増えつづける電子的情報をより多く効率的に高等教育機関に提供するために,さまざまな情報提供システムが画策されている。これらのシステムの基盤になっているのが,高等教育機関における図書館や情報提供センターについて,財政審議会及び高等教育機関への勧告をまとめた「フォレット報告書」や高等教育機関における情報提供サービスの中心的存在である「JISC(情報システム合同委員会)」である。JISCの助成によるデータベース等契約交渉機関CHEST,全国の高等教育機関のためにデータベースの提供・管理を行うナショナル・データセンター(BIDS・MIMAS・EDINA),全国認証システムATHENS等からなる英国の学術情報提供システムについて,高等教育の変化を背景に考察する。
キーワード:ナショナル・サイト・ライセンス,フォレット報告書,JISC,CHEST,NESLI,ATHENS,ナショナル・データセンター,電 子ジャーナル,データベース,英国