情報の科学と技術
Vol. 52 (2001)  , No.7
特集=公共図書館のニューウェイブ


特集「公共図書館のニューウェイブ」の編集にあたって
 (会誌編集委員会特集担当委員 小陳左和子,豊田恭子,山地康志,吉澤麻美)

みなさんは公共図書館をよく利用されますか?最近,公共図書館が変貌を遂げているように感じたことはありませんか?
今回は,本誌が今まであまり扱ってこなかった公共図書館の世界,特にその新しい動きをテーマとしました。24時間開館を実現したところや,NPO(特定非営利活動法人)によって運営される公共図書館が登場します。また,司書を全国公募したり,地域に対して積極的に情報発信したりと,どれも読んでワクワクするような創意溢れる事例ばかりです。もちろん,運営やサービス内容について様々な問題も抱えています。昔からずっと引きずっている問題もあれば,電子化への対応といった新たな局面も生まれています。変革期を迎えている現在の公共図書館の課題について論じていただきました。また,PFI(Private Finance Initiative)手法の導入といった,経営面での新たな可能性についても解説していただきました。情報を扱う世界に身を置く同志として,また,利用者として,今後も公共図書館の動向には常に注目していきたいと思います。

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公共図書館の現状と課題
薬袋秀樹* 
*みない ひでき 図書館情報大学
 〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
 Tel. 0298-59-1334(原稿受領 2001.5.1)

図書館統計には業務統計・調査統計および内部統計・外部統計の区別があり,図書館サービスの評価規準として量,質,費用,時間の4つが考えられる。これらを組み合わせて用い図書館を評価する際の枠組みとして,時間軸をも考慮した「図書館効果」のモデルを提示した。同様の視点から国際規格のパフォーマンス指標も4つに類型化され,調査統計の一種として活用できる。さらに図書館統計の国際規格の改訂作業も進められており,電子メディアを使ったサービスについて,新規の統計項目が検討されている。こうした国際的な動向も踏まえて,大学図書館は大学改革の一翼を担うためにも,今後第三者を交えた評価が求められる。

キーワード:公共図書館,図書館専門職員,情報サービス,雑誌,インターネット,アメリカ公共図書館,図書館運動

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24時間開館の図書館(まなぼう館)
村武正* 
*にしむら たけまさ 須佐町立図書館(まなぼう館)
 〒759-3411 山口県阿武郡須佐町須佐4296
 Tel. 08387-6-5500(原稿受領 2001.4.12)

24時間開館の図書館が誕生するまでの経過と開館の実態について報告する。
1) 24時間開館の図書館ができるまでの経過,2) 24時間開館のシステム,3) 開館後の経過,4) 今後の課題
町民の要望に応えることで誕生した須佐町立図書館は,いつでも,自由に自分で処理して本が貸りられる図書館であり,町民のため,子ども達のための図書館をめざしている。

キーワード:24時間開館の図書館

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町の図書館の試み―滋賀県・甲西町立図書館
梅沢幸平* 
*うめざわ こうへい 滋賀県立図書館
 〒520-2122 滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
 Tel. 077-548-9691(原稿受領 2001.4.20)

地方の小さな町に図書館が建設されることになり,専門職の館長として招かれ開館準備から携わることになった。そこで,これまでの,敷居が高いといったマイナス・イメージで語られる部分を払拭して,住民が暮らしの中で親しみ,役立つ図書館を目指した。そのためまず情熱のある司書を全国公募し,資料提供という日常業務への信頼度を高め,地域を掘り起こし発信する様々な試みも重ねてきた。その結果,住民の高い利用となり理事者,議会からも評価され,図書館は町づくりに欠かせない施設との認識が高まった。地域でのこうした図書館運営の経過を報告する。

キーワード:図書館,建設,専門職,館長,司書,公募,図書館運営

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公共図書館の電子化と公共性
根本 彰* 
*ねもと あきら 東京大学大学院教育学研究科
 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-3975(原稿受領 2001.5.1)

現在公共図書館は戦後3度目の大きな変革期に直面している。その際の重要なポイントは図書館の電子化であるが大学図書館に比べてもかなりの遅れをとっている。最近,出版関係者による公共図書館批判が見られるのは,将来的に電子出版と電子図書館の区別が曖昧になってくることが予想されるため,両者の本質的な関係についての議論が始まっていると考えられる。本稿では,公共図書館が公共的な基盤をもつことから,コレクションやサービスにおける公共性を明確にしていくべきことを論じた。

キーワード:公共図書館,図書館政策,図書館パッケージシステム,インターネット,出版流通,ベストセラー,公共性

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NPOによる図書館運営―高知県・高知こどもの図書館
穂岐山 禮* 
*ほきやま れい 特定非営利活動法人 高知こどもの図書館ボランティアグループ
 〒780-0844 高知県高知市永国寺町6-16
 Tel. 088-820-8250(原稿受領 2001.5.2)

長年こどもの本と文化にかかわってきた多くの市民が「こどもの図書館」設立の運動を始めた。そのきっかけは,高知県立図書館の新館建設・移転の計画であった。紆余曲折を経て,県行政の支援のもとにこの運動は「NPO高知こどもの図書館」として結実した。開館以来1年余り,図書館活動は順調に進んでいる。残るところは財政基盤の確立であるが,これは館の努力だけではのり越えがたい問題でもある。NPOの仲間と手を携えて,志ばかりでなく財政的にも確固とした非営利組織となるべく,方策を探り努力を続けなければならない。社会の成熟を促進するために。

キーワード:こども,本,未来,図書館,NPO,市民,行政,変革,夢

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PFIと公共図書館
浜野道博* 
*はまの みちひろ 特定非営利活動法人 日本PFI協会 事務局次長
 〒101-0061 東京都千代田区三崎町3-1-16 神田アメレックスビル1F
 Tel. 03-5213-3894(原稿受領 2001.4.24)

英国で誕生したPFI(Private Finance Initiative)は民間の資金,経営能力等を活用して公共サービスを効率的に実施する政策手法であり日本においても関連法制度の整備が進んでいる。日本の地方自治体は厳しい財政事情に直面しており今後公立図書館も含め多くの公共施設はPFI方式によって整備されるであろう。PFI方式によって建設された公立図書館では基幹的サービスは公共部門により実施されその他のサービスは民間事業者が行う。長期の事業期間中高い水準のサービス提供を保証するためには事業の準備段階から住民,専門家の意見を把握しPFI事業契約書にそれらを十分反映させることが重要である。

キーワード:PFI方式,PFI事業者,PSC,PFI事業のLCC,現在価値,VFM,民活,公的財政負担の縮減

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