情報の科学と技術
Vol. 51 (2001) , No. 5
特集=文献検索のこれから
特集「文献検索のこれから」の編集にあたって
(会誌編集委員会特集担当委員:北島由紀子,峯尾幸信,遠山美香子,豊田雄司,松林正己,山本和雄,吉澤麻美)
これまで文献を入手する手段といえば,図書館で索引誌やカードをマニュアルで調査したり,コンピュータを用いて各商用データベースから文献の二次情報を検索後,所蔵雑誌をコピーオーダーする方法や,図書室で雑誌・書籍の閲覧,書店からの購入などによる方法が主体であった。従来「紙」を基盤とする収集が主体であった文献情報は,デジタル化とネットワークの融合により,著者とその利用者との間に位置していた出版社,取り次ぎ店,ドキュメントデリバリ業者,データベースプロバイダ,書店,図書館,サーチャーに対して,その機能,サービス形態の変革を余儀なくしている。
そこで本号特集では,学術情報の流通に関わってきたそれぞれの立場において,流通形態の変化や今後の動向,課題,役割の変化などにスポットをあて,文献検索サービスの新たな展開を模索する。
情報検索の未来像
―学術情報の生産流通過程の変革とデジタル・コンテンツ―
松田和之*
*まつだ かずゆき 丸善滑w術情報ナビゲーション事業部
〒103-8245 東京都中央区日本橋2-3-10
Tel. 03-3272-3497(原稿受領 2001.2.20)
研究開発活動やビジネス,ひいては日常生活においても多重かつ多様な形態での情報収集の需要は高まるばかりである。必要な情報をいかに早く的確に検索し入手し活用するかという情報リテラシーは,専門家のみならず個々におけるあらゆる局面において,その能力の向上が必須とされる。
本稿では学術情報の流通に観点をおき,最も効率的な情報収集の手法としてのオンライン情報検索に注目し,その検索対象となるオンラインデータベースとWebにおける検索機能やサービスの活用に関して,ユーザーインターフェースの未来像を展望する。
キーワード:情報検索,学術情報,情報流通,Web,データベース,インターネット,デジタル・コンテンツ
電子ジャーナルと文献データベースの方向
松山裕二*
*まつやま ゆうじ ゼファー椛纒\取締役
〒228-0011 神奈川県座間市相武台1-4513-1-705
Tel. 046-259-2173(原稿受領 2001.2.23)
コンピュータと通信技術が学術出版に与えた影響を筆者の経験を通して考察した。この影響は点から始まり線そして面から立体へと拡大し,今や,生産,流通,そして利用の根底を揺るがしつつある。ドキュメント・デリバリー,電子ジャーナルの概要と契約,関係機関での役割や費用負担の変化,一次情報と二次情報の行方を検討した。この分野の発展は経済状況と密接に関連しており,関係者が協力することによって,様々な加工を行いながら市場を拡大して将来を切り開く必要があるとした。
キーワード:コンピュータ,一次情報,二次情報,電子ジャーナル,文献データベース,役割と負担,将来方向
電子出版から見た「これから」
深見拓史*
*ふかみ たくし 凸版印刷葛Z術企画部長
〒101-0024 東京都千代田区神田和泉町1番地
Tel. 03-3835-5552(原稿受領 2001.1.5)
電子出版から見た「これから」について論じる。特にビジネスプロセスの変化のスピードが急速に早まっている中で出版業界も対応を迫られている。商業電子出版物が普及しない,すなわちデジタルコンテンツ流通が加速するに到っていない現状の課題について2つの大きな問題点をかかげる。課金とセキュリティーについても述べる。
キーワード:電子出版,インターネット,商業電子出版物,課金,セキュリティー,デジタルコンテンツ流通
次世代のサイエンス・ダイレクト―文献検索の新しい局面
小山内 正 明*
*おさない まさあき エルゼビア・サイエンス鞄d子図書館サービス
〒106-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布1丁目ビル4F
Tel. 03-5561-5034(原稿受領 2001.3.19)
書誌データベースと全文データベースを統合化した文献検索システムであるサイエンス・ダイレクトの最新の機能とその思想について紹介した。正式な出版物以外のWeb上に散在する科学的文献を検索する新しいサーチエンジンSCIRUSを組み込み,次世代のエンドユーザー検索を目指している。
キーワード:文献検索,書誌データベース,全文データベース,学術出版,インターネット,電子ジャーナル
ジー・サーチの新規サービス
長塚 隆*
*ながつか たかし 潟Wー・サーチ
〒163-0722 東京都新宿区西新宿2-7-1(新宿第一生命ビル22F)
Tel. 03-3343-5202(原稿受領 2001.2.28)
ジー・サーチでの新規サービスである「InfoPro Station」,「G-Navi」,DialogのPDFファイルとのリンク,DataStarの電子ジャーナルリンクなどとの関連で,文献検索の現状と今後の方向について,Webの持つ特徴の実現,および学術情報の提供形態のあり方について議論した。
キーワード:「InfoPro Station」,「G-Navi」,DialogのPDFファイルとのリンク,DataStarの電子ジャーナルリンク,文献検索,Web
STNサービスの現状と今後の展開について
福 島 三喜子*
*ふくしま みきこ 科学技術振興事業団情報提供部オンライン課
〒102-0081 東京都千代田区四番町5-3
Tel. 03-5214-8414(原稿受領 2001.2.28)
オンラインコマンド検索からサービスを開始したSTNは,化学構造検索の画期的なツールSTN Expressを提供するとともに,インターネットおよび情報技術の進展に伴う状況の変化に即して,Webの検索ツールSTN Easy及びSTN on the Webを提供してきた。今後,世界的な情報インフラストラクチャの整備により,インターネット及びイントラネット上でSTNの情報をより効率的に利用できるよう,STNでは既存システム及び新製品の開発を行うとともに,フルテキストサービスの充実を図り,STNから二次情報データベースおよび一次情報の提供をすべてSTN製品の中から提供することを目指している。
キーワード:STN,検索ツール,コマンド検索,インターネット,Webサービス,フルテキストサービス,一次情報,二次情報データベース,JOIS
データベース・ディストリビュータ―生き残りへの道
設 楽 真理子*
*したら まりこ Ovid Technologies, Inc.
〒106-0044 東京都港区東麻布2-17-12 ユサコ鞄
Tel. 03-3505-3257(原稿受領 2001.3.5)
インターネット上陸以降,情報検索の世界とそれを取り巻く環境の変化は,非常に速く先が読めない。データベース・ディストリビュータは,検索システムの優位性を守るために,増大するエンドユーザーに対応したWeb製品を提供し,かつ自ら情報提供をはじめたデータベース・プロデューサーとも対峙していかねばならない。二次情報データベースと電子ジャーナルのリンクだけではなく,利用者側の図書館システム等との連携も必要とされる。自社製品に拘泥せずひろく情報を束ねるOrganizerの開発や関係各社との協力,ユーザーの利便性を考慮したCustomizationなどが今後の方向となろう。また,二次情報データベースの存続には,利用者の理解と教育も欠かせない。
キーワード:データベース・ディストリビュータ,データベース・プロデューサー,出版社,電子ジャーナル,Web,検索システム,エンドユーザー,Ovid
ドイツの日本関係図書館のインターネット時代における最近の課題
原 淳之*
*はら あつゆき 図書館情報大学 情報メディア社会分野
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 0298-59-1338(原稿受領 2001.2.28)
2000年11月,ドイツのベルリン日独センター(JDZB)で「21世紀における日本情報―ドイツ語圏における日本関係図書館の新しい課題」(後援:国立情報学研究所(NII),日本資料図書館連絡会(Arbeitskreis Japan-Bibliotheken))と題したワークショップが開催された。本稿ではこのワークショップの報告を通じて,とりわけインターネットと関連させてこれらの図書館の最近の課題について言及する。本稿で紹介されるドイツ側の6つの発表は,ベルリン国立図書館(SBB)とバイエルン州立図書館(BSB)の日本コレクションと目録データベース作成,ドイツ図書館(DDB)におけるデジタル出版物の納本への取り組み,ドイツの専門図書館の概観,ワンパーソンライブラリー(OPL)のマネジメント等に関するものである。
キーワード:ドイツ連邦共和国,日本関係図書館,インターネット,ベルリン日独センター