情報の科学と技術
Vol. 51 (2001) , No. 3
特集=法令・判例情報
特集「法令・判例情報」の編集にあたって
(会誌編集委員会特集担当委員 岩澤一男,小陳左和子,豊田恭子,山地康志)
最近の犯罪の低年齢化,科学技術の進歩に伴う犯罪の複雑化,学問的にはロースクール構想,企業においては商業上の問題および国際間の競争,刑事裁判への参審制導入のための制度づくりと法関連のニュースは枚挙に遑がありません。この動きの中で法情報を的確に捉え,迅速な対応が重要になってきています。
しかし,法情報は学術文献と異なり,図書館,資料室などでも調査,情報の入手が困難な分野ではないでしょうか。最近ではインターネットで広く公開の方向には向かっていますが,情報源としての信頼性,速報性などの問題もあります。
この特集では,法体系から印刷物での資料類およびデータベースなどの現状について,法情報を専門としていない図書館員,情報管理者,研究者の方々を対象に,法令・判例情報を調査する際の必要な知識をまとめるように企画しました。
最初に,総論として「法令・判例情報とは」から解説していただき,国内の法令集,判例集,海外の法情報としてアメリカとEU,更に国内の速報版として重要な官報を柱とした構成になっています。
今回の特集がこの分野の道案内となり,興味を持っていただければ幸いです。
最後になりましたが,お忙しい中,快く原稿を引き受けてくださった執筆者の方々に厚く御礼申し上げます。
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総論:法令・判例情報とは―その生成と提供のプロセス―
指宿 信*
*いぶすき まこと 鹿児島大学法文学部法政策学科教授
〒890-0065 鹿児島県鹿児島市郡元1丁目21-30
Tel. 099-285-7628(原稿受領 2000.12.27)
法令(法律,規則,省令,条例,条約など)に関する情報と,判例に関する情報につき,その種類,概要,特色,生成,提供について概観する。また,これらの法情報の提供環境に固有の問題点を明らかにする。
キーワード:法令,法律,判例,裁判,法情報,インターネット
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国内法令の調べ方
福永正三*
*ふくなが しょうぞう 大阪市立大学法学部
〒558-8585 大阪府大阪市住吉区杉本3丁目3-138
Tel. 06-6605-2306(原稿受領 2001.1.5)
法令の調査には独特の難しさがある。まず,それぞれの法令の改廃を的確に捉えておくことが必要であるほか,法令には上位下位の階層的なレベルがあり,調べる事柄によってアクセスすべきレベルが異なること,そしてこの要求に対応するために刊行または編集スタイルと調べ方に個性をもつ多くの法令集があるが,それらを使い分ける必要があること,である。
本稿は,法令集を刊行・編集上の特徴によって類型化したうえで,各々の索引等を紹介することによって,効率的な国内の法令の調べ方を明らかにすることを目的とする。
キーワード:法令,索引,目録,データベース,インターネット,法情報検索
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国内の判例(集)の調べ方
石川 万里子*
*いしかわ まりこ 元北海道大学法学部法令判例新刊雑誌室
E-mail:mari@db3.so-net.ne.jp(原稿受領 2000.12.26)
判例の検索では個別の判例について所与の情報がある場合と,法令やキーワードからさがす場合がある。前者の場合では〈裁判所名と判決年月日,事件番号,適用法令とその条項〉などが指標となる。そこで判例検索をするさいに指標となるこれらの事柄や,引用のされ方について解説をする。また判例集にみられる〈事件名,判例要旨,判示事項,主文,事実,理由,意見〉についても解説をして判例の構成を知っていただこうと考える。後半では,印刷体の判例集や検索資料の種類と利用,また判例データベースやインターネットウェブ,判例の調べ方を紹介する。
キーワード:判例,判例集,判例要旨,判示事項,引用,裁判所,事件番号
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海外の法令・判例情報
染谷雅幸*,石川優佳**,内記香子***
*そめや まさゆき,**いしかわ ゆか,***ないき
よしこ 東京大学法学部附属外国法文献センター助手
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-3198(原稿受領 2001.1.11)
東京大学法学部附属外国法文献センターで手に入れることができる,海外の法令および判例資料の基本的な探し方について解説する。紙面の都合上,本稿では,アメリカ,イギリス,フランスおよびドイツの4カ国に限った上で,それぞれの国の具体的な法令集・判例集を紹介している。国により,また年代により,多様な形態の資料が存するため,それぞれの特徴や利用方法を理解することが,法令および判例に関する情報を正確かつ速やかに把握するための第一歩である。難解とされている海外資料の検索を,少しなりとも分かり易く伝えることが本稿の目的である。
キーワード:外国法,法令,判例,調べ方,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ
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国内の官報
足立寛子*
*あだち ひろこ 大蔵省印刷局技術課(2001.1.6以降財務省印刷局技術課)
〒105-8445 東京都港区虎ノ門2-2-4
Tel. 03-3587-4323(原稿受領 2000.12.25)
官報は1883年に創刊されて以来,行政機関の休日を除き,毎日発行されており,2001年で118年の歴史を数える日刊紙である。通常,官報には「法令の公布」「広報」「公告」という3つの役割があると言われており,時代の変遷に応じて,その形態や内容を変えながらもこれらの役割を担ってきている。本報では,これらの役割の1つである「法令の公布」を中心に,官報の歴史や冊子の種類,紙面構成,及びインターネットによる官報閲覧サービスをはじめとする,これからの官報に関する考え方等についての概要を紹介する。
キーワード:官報,法令の公布,歴史,紙面構成,閲覧サービス
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PATOLIS高分子関連複合語フリーキーワードの検討
―高分子関連複合語フリーキーワードの信頼性評価―
本間文子*
*ほんま あやこ 住友化学工業 精密化学品研究所
〒554-8558 大阪府大阪市此花区春日出中3-1-98
Tel. 06-6466-5128(原稿受領 2000.12.21)
(注) この論文はINFOSTAシンポジウム2000で発表されたものである。
PATOLISの高分子関連複合語フリーキーワード(以下,複合語FKと略す)は,検索時の煩雑性を軽減し,検索ノイズを減らすことを目的に作成されている。その検索語としての信頼性を,ポリエチレンなど10種類のポリマーを複合語FKと従来型ワードで検索し比較することで検証した。その結果,複合語FK検索にはその作成・付与方法に起因する限界があり,汎用ポリマーで出現頻度の高い表記にしか使えない,モレの程度はポリマーの種類によって異なること等がわかった。従来型ワード検索と併用して網羅性の高い検索を行うためには,その作成方法や特徴を充分に理解しておく必要がある。
キーワード:PATOLIS,高分子関連複合語フリーキーワード,付与方法,ポリマー検索,評価
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