2000年7月号

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特集「メディアの保存と管理」の編集にあたって

図書館や企業の情報センターではそれぞれのテーマや分野ごとの情報を収集している。これらの情報は従来の紙媒体の資料はもとより,電子媒体等の新たな資料形態へと多様化してきている。
このような変化の時代にあって,各図書館や情報センターでは所蔵資料の保存と管理について,様々な問題をかかえ,これらに対処をしているのが現状である。今回,従来型の紙媒体資料や新たに普及してきている電子媒体情報等の保存と管理について,図書館での実情と実際の対処方法についてまとめていただいた。 そこで,総論では「図書館や情報センターの所蔵資料」と「アーカイブ・ドキュメント」についてそれぞれ保存と管理の現状をまとめていただき,各論で電子メディアを中心に保存・管理および複製と著作権について実情を報告していただきました。また,学術雑誌の共同保存の観点から JSTOR サービスの紹介をしていただいた。本特集の内容が,今後の図書館・情報センター業務における資料管理に少しでも参考となれば幸いである。
(編集担当委員 峯尾 幸信,重田 有美,田邊 稔,山地 康志)

 

特集:メディアの保存と管理  資料の保存と管理―現状の課題と展望―

冨江伸治 (とみえ しんじ) 筑波大学・芸術学系
  図書館における資料の保存と管理について,現在直面している課題を「保存スペースの問題」「資料の劣化対策」「電子資料の保存」にまとめ,これらの問題の流れと広がりを整理した。そのうえで,主に紙に記録されたもので直接読める「印刷資料」と,再生機器を介して視る「電子資料」に分け,各々の特性をまとめ,保存上の課題と保存の存り方・方法について概説した。そして,両資料の長所を生かした相補的な保存方法を考慮しながら,総合的な保存対策を立てる必要性について述べ,直面する当面の課題解決のために共同保存図書館の設立を強調した。
キーワード:図書館,印刷資料,電子資料,劣化対策,保存,保存の手順,保存図書館

 

特集:メディアの保存と管理  アーカイブ・ドキュメントの保存と管理

小川 千代子 (おがわ ちよこ) 国際資料研究所   
アーカイブ(公文書等)の長期保存管理についての社会的関心が高まっている。アーカイブやドキュメントの定義は,コンピュータ用語と伝統的文書館用語の2種類が存在する。この2種類の定義を確認した上で,日本の行政体の文書にかかわる法令と記録管理システムを考察する。さらに,実務担当部門と公文書館における文書(記録)のライフサイクルの流れと各段階の考え方を文書管理規程とともに考察する。記録管理と文書保存の枠組全体についての責任者となるべきアーキビストの養成研修プログラムの概観を加え,最後に日本の記録管理システム改善のため記録管理院の設置等のアイデアを提示する。   
キーワード:文書の長期保存管理,アーカイブ,アーキビスト,養成研修プログラム,文書法令,文書規程,文書のライフサイクル,記録管理,記録管理院  

 特集:メディアの保存と管理   電子出版物の保存          
大島 薫 (おおしま かおる) 国立国会図書館総務部企画課
  電子出版物の保存には,従来の紙やマイクロフィルムの保存とは異なる課題があり,新しい考え方が必要である。電子出版物の保存には媒体の保存,技術の保存,知的内容の保存の3つのレベルがあり,この3つの次元の要件が満たされて始めて長期的な保存が可能となる。電子出版物の長期的保存に責任を持つデジタル・アーカイヴは,電子出版物のライフサイクル,@生産,A評価・選択,B収集・受入・保管,C目録・識別,D保存,Eアクセスの6つの段階における保存のためのベスト・プラクティスを考慮していかなければならない。電子出版物の保存には固有の経済的課題,制度的課題がある。また,国や専門分野を超えた関係機関の協力が不可欠である。
キーワード:電子出版物,保存,デジタル・アーカイヴ

特集:メディアの保存と管理 電子メディアの複製と著作権

佐藤英雄 (さとう ひでお)  (社)コンピュータソフトウェア著作権協会研究員
「電子メディアの複製と著作権」には,保存資料を電子媒体に複製するための著作権と電子媒体の資料を提供するために複製(いわゆる複写サービス)する著作権の二つの意味がある。前者は紙媒体で保存されている資料の電子化であり,後者は電子出版物など電子化された媒体を閲覧し,複写して利用する際の問題である。この二つは,図書館業務全体から見れば,ひとつの流れのなかで捉えられるが,著作権的視野で見れば,意味はかなり違う。ここでは,著作権的視野で,この二つを見ていくことにした。そこから浮き彫りになるのは,現行著作権法の制限規定がデジタル化,ネットワーク化に対応していないということである。     
キーワード:電子メディア,電子図書館,著作権,複製権,公衆送信権,納本制度

特集:メディアの保存と管理  学術雑誌の共同保存としての 「JSTOR」の紹介

三原 勘太郎 (みはら かんたろう) ユサコ
多くの出版物が電子化される中,JSTOR はバックナンバーのみを電子化するアーカイブプロジェクトとして注目を集めている。JSTOR は,学術誌のバックファイル所蔵管理に伴う問題を解決する目的で,メロン財団により設立された非営利団体である。JSTOR は電子化された学術誌のバックナンバーを初号より,オンラインにて提供するアーカイブプロジェクトである。ここでは JSTOR の背景,特徴,利用統計,契約の方法などについて簡単に説明したいと思う。  
キーワード:JSTOR,メロン財団,非営利,デジタルアーカイブ,電子ジャーナル,バックナンバー

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