2000年6月号

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特集 「図書館生き残り作戦」 の編集にあたって

昨今の大学や企業などの図書館・情報部門は,人員や経費の削減を余儀なくされたり,組織内でのリストラクチャリングの対象として考えられたりと,厳しい状況下に置かれていることと思います。また,インターネット環境や電子情報化の動きへの対応といった,時代の流れに即した変化を迫られています。
 しかし,例えば,人員削減の指令は,今まで行ってきた業務を見直し,スリム化すべき部分とそうでない部分を考え,真に必要な部署へ人員を再配置するチャンスと考えることはできないでしょうか。
 他の部門と図書館・情報部門とが融合することにより,無用な境界を取り払い,さらに拡がりのある事業に再生させることはできないでしょうか。
 利用者や設置母体に対して,図書館や図書館員の存在意義をアピールできるような活動を,積極的に行っていくことはできないでしょうか。
 本特集のタイトルには「生き残り」という言葉を使ってはいますが,決してネガティブに捉えるのではなく,こういう時代だからこそ,ポジティブかつ発展的に対応したい,逆境をも逆手に取って改革の契機としたい,と考えて企画したつもりです。
 そのような発想に対するヒントとなればと思い,いろいろな立場からのご提言や事例のご紹介をいただきました。読み終えた時に,なんだか元気になったような気がする,あるいは,何かやれるかも,と夢がふくらんだ… そんなふうに感じていただければ,非常にうれしく思います。
(編集担当委員 小陳左和子,重田有美,棚橋佳子,友田暁子,豊田雄司,松林正己)
 

 

特集:図書館生き残り作戦  図書館の再生と繁栄にむけて

豊田恭子 (とよだ きょうこ) JPモルガン
  図書館は専ら情報源(パッケージ)を対象にサービスしてきた時代から,所有とアクセスを併用した時代を経て,現在はコンテンツと直接向き合わなければならない時代へと変容してきている。デジタル情報世界に秩序をもたらすナレッジセンターの構築が試みられるなかで,ライブラリアンは構築と活用の両面にわたってこれに積極的に対応することが求められており,その活動の場は無限に広がっている。社会の胎動が図書館内に新たな息吹を吹き込み,また図書館で培われてきたノウハウが社会の各所に生かされていくことで,日本における豊かな情報環境の発展を望むことができる。  
キーワード: 図書館,ライブラリアン,ナレッジセンター,インターネット,歴史,方向性,情報環境

特集:図書館生き残り作戦  生き残りのためのアメリカンセンター・レファレンス資料室の試み

京藤松子 (きょうとう まつこ) 東京アメリカンセンター・レファレンス資料室
    アメリカンセンター・レファレンス資料室は過去に2度の大規模な改革を実施。米政府のパブリック・ディプロマシーをより専門的に遂行するレファレンス資料室として,近年急増しているリモート・ユーザーを対象に「電子メールによる情報案内」,「主題別パッケージサイト」,「Fax-on-Demand」の3つのサービスを実行してきた。1999年の国務省への合併後,よりコスト効率とユーザー変化を踏まえた更なる改革の必要に直面している。デジタル化社会が進む今後は,ホームページを中心にしたデジタル・ライブラリーへの移行が必須となる。  
キーワード: パブリック・ディプロマシー,国際情報プログラム室(IIP),電子メールによる情報案内,主題別パッケージサイト,リモート・ユーザー,ファックス・オンディマンド

  特集:図書館生き残り作戦  ポスト電子図書館  東京大学情報基盤センター図書館電子化

      研究部門のスタンス           
中川裕志 (なかがわ ひろし),杉本雅則 (すぎもと まさのり),渡部聡彦 (わたなべ としひこ)   東京大学情報基盤センター図書館電子化研究部門
   東京大学に1999年度に設立された情報基盤センターの図書館電子化部門および同研究部門は図書館の電子化ならびに将来像を検討するために新設された部門である。設立以来の短い期間に部門のメンバーが考えてきたことは,必ずしもまだまとまっているわけではないが,いくつかの有力なアイデアも提案されてきているので報告する。まず,図書館の概念に対するアンチテーゼ的な見方を述べ,次に情報基盤センター図書館電子化部門で近未来にどのようなサービスを企画しているかを述べる。最後に,将来,アカデミックな共有の場としての図書館において有望なユーザインターフェース技術の紹介をする。
キーワード: 電子図書館,ストック,フロー,OPAC,情報資源,ユーザインターフェース

特集:図書館生き残り  図書館新館への道

長野由紀 (ながの ゆき)  国際基督教大学図書館
  国際基督教大学は1990年代,機械化の時期をへて電子情報サービスを行うために,仕事の再編成を続けてきた。電子情報サービスの学習期,雑誌の見直し計画と代替案の実行を経験し,同時に電子情報サービスのための新館計画を数年間進め,建物の完成に至り,2000年の9月に開館を予定している。複雑で急速な変化の中のチームによる仕事の編成やコンピュータセンターとの協力を中心に,図書館の再組織化の過程を述べる。
キーワード:図書館の再組織化,チーム編成,電子情報サービス,図書館とコンピュータセンターの協力,新館建築

特集:図書館生き残り作戦 変化する図書館機能と空間創造

加用 真実(かよう まこと)鹿島建設叶ン計・エンジニアリング総事業本部 設備設計部,

森 徹(もり とおる)鹿島建設叶ン計・エンジニアリング総事業本部 建築設計部,

伊藤 隆彦 (いとう たかひこ)鹿島建設滑J発総事業本部,

西野 篤夫(にしの あつお)鹿島建設鰹報システム部 

  私達は,図書館を設計し建築する立場から,今後の図書館の在り方について検討を行った。情報時代の図書館とは? 地域と図書館との関係は? 地球にやさしい図書館とは? など,21世紀の図書館のあるべき姿を,建築の視点から,あるいは情報化の視点から,各メンバーの専門分野から捉え直したのが本論文である。   様々な変貌を遂げる図書館機能の中で変わってゆくもの「情報化」と「開放化」の流れ,そして,変わらないもの「快適性」と「安全性」の追求,この4つのキーワードに沿って,先進図書館の具体的な事例や,建物への適用例を交え紹介する。

 キーワード:情報化,メディアセンター,PFI,地球環境,環境エンジニアリング,LCC,LCCO2,屋上緑化,雨水利用,制震,長寿命化

投稿  第11回(1999年)国際化学情報会議 参加報告

時実象一 (ときざね そういち)  科学技術振興事業団科学技術情報事業本部情報事業部
  International Chemical Information CongressはHarry Collierによって1989年にスイスのMontreauで最初に開催された。その後1991年から1994年までフランスのAnnecyで開催され,1995年から同じフランスのNimeに移った。今年(1999年)またAnnecyに戻ってきて,2―3年はここでおこなわれる予定である。この会議の特徴はCASを始めとする主要な化学情報提供者のリーダーや主要化学企業の情報担当者が出席して講演することである。なお今回はCASのMassie所長,Questel-OrbitのBuffet社長,FIZ KarlsruheのSchultheiss所長などが講演した。ただしMassie所長は急に参加できなくなり,ビデオによる講演と,国際電話での質疑となった。企業からはBASF,SmithKline Beecham,Novartis,GlaxoWelcome,3Mなどの講演があった。今回は特にWeb技術の既存情報サービス,特に特許サービスへの影響と,各種データ・マイニングやナレッジ・マネジメントについての発表が多かった。  

 

 

 

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