2000年5月号

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特集「ディジタル情報資源の評価」の編集にあたって

 
情報技術(IT)とインターネット環境の進展に並行して,さまざまなディジタル情報資源がパッケージ系(CD-ROMやDVD),ネットワーク系(WWW上の電子ジャーナルやデータベース)に大別されながらも生活世界に浸透しようとしている。本誌でもその技術的側面は,メタデータや電子ジャーナルに関する特集を通じて取り上げてきた。個人にしろ機関にしろ,ディジタル情報源の導入には料金体系を含めた経済的問題もあり,既に500年以上の実績を持つ印刷媒体との連携を含めて適切な導入基準を設定することは重要な課題,と考えた次第である。   欧米のサイトを見れば,ディジタル情報資源の評価方法をガイドラインとして運用している機関も多いので,これらの内容を読めば古くて新しい問題の焼き直しに見えるかもしれない。時代はまさに世紀転換期,情況は混沌としている。情報の大海に棹さすわれわれは漂流せず,自らのコンパスを定めることが肝要なことはあまねく自明である。そこで本号ではディジタル情報資源の評価をめぐる問題点と導入事例をグローバルな視点から報告してもらい,読者諸賢がディジタル情報源を利用されるさいの評価指針やその設定の一助になれば,編集担当者一同望外の喜びである。
(編集担当委員 松林正己,北島由紀子,友田暁子)

 

特集:ディジタル情報資源の評価  ディジタル情報資源の評価

逸村 裕 (いつむら ひろし) 愛知淑徳大学文学部図書館情報学科
多様化したディジタル情報資源,中でもネットワーク情報資源の量的増大は情報サービスの提供に大きな影響を与えている。増加を続ける電子雑誌の中には単に紙媒体がディジタル化した以上のものもある。この状況下で情報サービスを効果的に行うためにはねディジタル情報資源の評価を行う必要がある。本論文では複数のネットワーク情報源提供サービスの調査から,今後の情報サービスのためには既存の目録索引技術を取り入れたメタデータの知識,新しい情報技術を駆使したネットワーク技術そして新しい情報システムへの知識を通じてディジタル情報資源の評価を図る必要があることを論じ,その要素について述べた。図書館員と情報専門職は今後これらの知識技能の修得を図る必要がある。  
キーワード:ネットワーク情報資源,評価,図書館員,情報専門職,メタデータ,CORC  

特集:ディジタル情報資源の評価 人文社会科学系大学のデジタル情報資源の導入と評価

杉山誠司 (すぎやま せいじ) 日本福祉大学付属図書館  
デジタル情報資源は特殊で実験的な資料ではなく,図書館にとって普通の資料になってきた。しかし,日本の図書館にデジタル情報資源の評価方法が一般化するほど定着もしていない。デジタル情報資源の評価の素材として,電子ジャーナルの統合サービス(Aggregator)をとりあげた。問題はメディアの機能上の比較による評価だけでは不十分である。デジタル情報資源の利便性と利用者にとっての利便性を合致させる手法が必要である。デジタル情報資源の評価手法の多くは利用者全員を対象にしたマスアプローチをとっている。マスアプローチは無駄があり欠陥がある。そこで必要なのが標的マーケティングである。E. M. Rogersの『Diffusion of innovation』がある。イノベーション普及学では,採用者グループを次の5つのグループに分けている。(1)革新的採用者 (2)初期少数採用者 (3)前期多数採用者 (4)後期多数採用者 (5)採用遅延者。この理論はデジタル情報資源評価に極めて有効であると考察した。  
キーワード:デジタル情報資源,電子ジャーナル,利用者満足度,マーケティング,イノベーション普及学

特集:ディジタル情報資源の評価 サブジェクトゲートウェイの構築と運営 ―理工学分野の高品質なインターネットリソースの提供をめざして―

尾城孝一 (おじろ こういち) 東京工業大学附属図書館
学術情報源としてのインターネットの重要性は広く認識されている。しかしながら,インターネットの高品質な情報を効率的に見つけ出すことは容易なことでない。本稿では,従来のサーチツールの限界と,それを打開するための新しいサービスとしてのサブジェクトゲートウェイの必要性およびその特徴について論じる。つづいてサブジェクトゲートウェイの例として,東京工業大学電子図書館における理工学系インターネットリソースへのゲートウェイのシステム構築とそのサービスについて紹介し,そのなかで,高品質なインターネットリソースの収集と評価,メタデータの作成,検索サービスの実際等について述べる。最後に今後の展望として,ゲートウェイ間の協調および相互利用性の重要性を指摘する。
キーワード:サブジェクトゲートウェイ,インターネットリソース,インタネットリソースの評価,メタデータ,東京工業大学電子図書館,相互利用性

特集:ディジタル情報資源の評価  中国におけるデータベースの開発と評価

李 常慶 (Changqing LI) 北京大学信息管理系
国民経済と科学技術の発展のため,データベースなどの情報資源の開発が中国の科学技術情報研究所や情報センターを中心とする情報提供機関によって進められてきた。計画経済から市場経済に移行する中で,政府からの資金援助の削減や情報有料化の実施などがあって,情報市場に相応しいビジネスデータベースなどの開発においては大きな進展が見られた。   この20年間,中国におけるデータベースの開発は大きな成果を挙げたにもかかわらず,データベースの開発スピードやデータの容量,統一の基準,商品化,同種製品の複数開発など多くの問題を抱えている。しかし中国版「情報スーパーハイウェイ」のインフラストラクチャーが整備されていくに連れて,さまざまな中国語データベースの開発は今後大きな発展が予想される。
キーワード:データベース,情報資源,中国,開発,情報科学

特集:ディジタル情報資源の評価  Webサイトの評価基準の開発 Current Web Contents選択基準から

棚橋佳子 (たなはし よしこ) トムソン・コーポレーション梶^ISIジャパン
学術的な研究指向のWebのホームページを集めて体系化しようとする試みの中で生じた問題点と,その経験の中から産み出された評価基準について解説する。ISI社のWebのサイトを選択する基準は学術誌の厳選基準に準ずるものに加え,Webの情報であるがために考慮する8項目をあげている。学術誌の発展と同様,価値あるWebのサイトも淘汰され,重要サイトが確立されていく過程において確実に信頼できるWebサイトへの二次情報の成長も望まれている。
キーワード:学術情報,ホームページ,二次情報

投稿(翻訳)  インターネット時代のライブラリアン精神

ブライアン・J. ペリー 元英国図書館研究開発部長  
本論文は,学術情報センターが実施した「日本情報の国際共有に関する研究」の成果発表のために来日した元英国図書館研究開発部長のDr. Brian J. Perryが,1999年10月26日に日英ライブラリアン・クラブの会員のために行った講演原稿を,同博士の承諾を得て当協会が翻訳したものである。図書館関係者に向けた講演のため標記の主題となっているが,インターネットにより変化しつつある社会および情報環境について洞察し,新しい時代の情報担当者の使命と役割を説いたもので,図書館員に限らず広く情報に携わる人々に示唆を与える内容となっている。同博士は,英国図書館の研究開発部門の創設と基盤確立の功績はもとより,英国文化相の諮問機関であるLibrary and Information Serviceのオブザーバー,Institute of Information Scientistsの評議員,Super JANET Advisory Committee of Networkの委員,FIDの英国代表等,英国図書館在職中は多数の役職にあり,英国のみならずヨーロッパの図書館・情報産業界の重鎮として活躍された。日本に関しては,同氏のイニシャティブで英国図書館研究開発部と紀伊國屋書店が1992年に「日本の大学図書館の将来」というマルチクライアント調査研究を行い,1993年9月に成果報告書を出版している。
 

連載:統計の読み方(第12回)  情報化編

保坂 睦 (ほさか むつみ) 慶應義塾大学三田メディアセンター
日本の「情報化」をめぐる統計について,コンピュータの普及と生産,およびネットワーク化の側面を中心に概観する。調査動向に加え,情報へのアクセス源も紹介する。  
キーワード:情報化,情報,統計,インフォメーション・テクノロジー(IT),コンピュータ,ネットワーク,インターネット  

 

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